「なあ、ユキナリは具体的にどうすればこの乱世を変えられると思う?」

阿弥陀籤で負けたマダラが三人分の昼食を用意すべく川で魚を捕獲している様子を大岩の上に座って眺めていた柱間は、今まで黙りこくっていたかと思えば急にそんな事を聞いてきた。

「改革の方法か……」

魚を焼くための火を熾し終え、木の枝を放り投げながら柱間の問いに考え込む。忍の世を変えるというのは一筋縄ではいかないことだ。

「マダラはオレ達のこの志しを捨てないこと、力をつけることが大事だって言ってた。弱い奴が何を言っても変わらない……オレもそう思う」
「確かにそれは必須だな」
「オレの父は敵を全て滅ぼすことで争いが終わると言う」
「悲しいがそれも一つの道ではある」

皆の言う忍とオレの知る忍はかなり定義が違う。俺にとっての忍は情報収集の手段、歴史の闇で暗躍する影の者だ。だがこの世界の忍は一切忍んでいないただの傭兵集団である。忍術体術幻術、それらの力に物を言わせる脳筋だ。仕える主君もいない。
そういった連中が考える平和とは、大体が柱間の父と同じく敵の殲滅だ。敵がいなければ平穏平和平常。そんなことはありえないのに、敵がいない世界を見た事がないせいで敵がいない世界に夢を見すぎてる。

「そしてオレの弟は、敵と協定を結んで……今後の忍は感情を抑えてきっちりルールを作り、それに則って余計な戦いを避ければ良いと言う」
「へえ、賢い弟じゃんか」
「……力をつければオレ達の言葉に耳を貸してくれるようになるとは思うが、それですんなりと事が運ぶとは思ってない。だがオレは本当の協定、本当の同盟を組みたいんだ。どうだ、ユキナリ」

腕を組み、明るい青空を見上げて目を細めた。
今この瞬間も血で血を洗う戦場が世界の何処かに存在するのだろう。
こんなにも長閑で暖かい日だというのに、変わらず誰かが何処かで命を散らしていく。
それでは何時か……一族の先頭に立つ父上もそれを支える母上も、弟のコノハたちも、儚く命が散っていくだろう。
戦場に立って敵の命を奪う以上、きっと何時かは奪ってきた分の命を奪われるだろうが、それは嫌だった。
太陽が雲によって遮られ、影が差す。
周辺は暗くなる。だがそれは何も見えなくなるような暗闇ではなく、目を動かせばその先に柱間の姿も、マダラの姿も見えた。
そして時間が経って雲が風によって運ばれていき、太陽がまた身体を照らし始める。

「俺達がそれぞれ一族の長になる――そして長として三つの一族間で同盟を組むんだ」
「!それが実現すると忍界のバランスは崩壊するな、どこにも敵う奴はいなくなるんじゃないか?」
「……ああ。日向にうちはに千手、一纏めになって集落を作り、国に雇われるようになった日には、」
「他の一族もオレ達の同盟に入ってくれるやもしれないな!」

興奮冷めやまぬといった柱間に苦笑し、目線を下げた。
もしこれが上手くいったとしても、俺達に与しない一族は山ほど存在するだろう。
そして戦力割高となった俺達のやり口を真似し、他の一族たちもまた一つに纏まって強固な集団となる。
やがて行き着くのは火水雷風土、これら五大国による今までにない程苛烈な戦争……いや、大戦か。
戦闘員が増え平均寿命が高まり余裕が生まれ技術が発展すれば、そこから巻き起こる戦いの過酷さは今までの比ではない。
子供は死ななくなるかもしれない。しかし、死者の数は変わらない。そんな未来が見える。
だが。

「ようし!つまりオレ達はもっと力をつけなければならないということ!メシを食べ終えたらもう一度組手ぞ!」

俺達が目指すのは、子供たちが戦場に行かなくても良い未来だ。
戦争が起こらない未来ではない。
そんなもの俺では不可能だ。
少なくとも、俺の代では無理だろう。

「そうだな、頑張ろう」

そう思いながらも、目の奥を輝かせ士気の高まったこいつに冷や水をぶっかける気は起こらなかった。


戻る
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -