見上げれば青い空に白い雲。空気を吸うと、淀んだものは殆ど混じっていない綺麗な酸素が肺に入る。それを疑問に思う暇もなく、俺は修練に明け暮れていた。

父上も母上も黒い髪と白い目。川を覗き込む俺の目は赤かった。川に手を伸ばして水面に映る自分をばちゃばちゃ叩く俺に、母上はそっと後ろから抱きしめてとても綺麗な色よと言ってくれた。

俺が住む集落は日向一族という部族のものだった。日向一族の血に連なる者は薄紫がかった、色彩の薄い白の目を持っている。父上は日向一族の当主、母上はその父の再従妹であり、血筋を考えると二人の間に生まれた俺は間違いなく日向一族特有の目を持っている筈なのだ。
特異な目の俺を見て、多くの者たちは母上が不義を働いたのではないかと疑心を抱いた。父上は母上の愛を信頼していたものの、こうも反対の声が多い中で親子揃って暮らすのは難しい、当主の信用も下がるし幼い俺への強いストレスにもなる。父上の腹心による監視、という名の護衛がいる状態で、母上と赤ん坊の俺は集落の外れに移り住むことになる。

「ごめんなさいユキナリ、辛い思いをさせて……」
「なんのこと?おれ、たのしいよ。みてて、きのうよりチャクラがうまくねれたんだ!」

不義を疑われていても一族の戦力の一つである母上は集落を追い出されることはなく、赤目の俺もまたある程度の年齢まで経過を見守られていた。
日向一族の目には、とある特殊な瞳術が秘められている。
――白眼
三大瞳術の一つであり、常人ではありえざる広大な視野能力、体内の経絡系すら見通せる透視能力がある。俺がこの力を開花させた時、初めて日向の姓を名乗ることを許されるのだ。

その為、俺は来る日も来る日も肉体を鍛え精神を鍛え、白眼の開眼を目指した。手紙でしか話したことのない父上に会うために。大好きな母上を父上の元に帰すために。
そうして過ごした苦節四年……五つの年を迎えた俺はやり遂げた。

「ああ……大きくなったな、ユキナリ」
「父上、初めまして!お会いしたかったです!」
「うむ、うむ、敬語はいらんぞ、そんなものは必要ない。オレも、もっと早くにお前たちに会いたかった」
「あなた……」

その日生まれて初めて顔を合わせた父上は俺たちを見るとぐっと涙を堪えて、母上と共に強く抱きしめてくれた。これで漸く俺たちは親子として同じ屋根の下、一緒に暮らせるのである。
喜びに浸りながら、俺はとある夢の存在を深く有り難く思った。何時から見始めたのかは忘れたが、その夢は日々の修行に役に立ってくれたのだ。
夢と言うには見える風景はやけに鮮明で、出てくる人たちは馬鹿丸出しで、天人という空の向こうからやってきた宇宙人もばんばん現れた。

(なんだこれ、明晰夢か?どうせならもっと修行に使えそうなもの見せてよ)

そう夢の中で思った途端、風景が切り替わりどこかの道場で組手をしている少年たちの姿に切り替わる。既に十分強いと言うのに更なる向上を目指しているらしい少年たちの修行風景はとても身になってくれた。白眼を開眼するほどまで心身を鍛えられたのは日夜稽古をつけてくれた母上、父上の部下、そしてこの夢のお蔭である。
しかし――

「ナルトかぁ……」
「あら、珍しく黄昏て。どうしたのユキナリ?」
「あ、母上……ううん、早く平和になってほしいなって考えてただけ」
「……そうね、皆が傷つかなくてもいい世の中になればどんなにいいか」

あの夢――――というよりかつての記憶はただ俺に有益をもたらすだけでなく、悩みまで押し付けてきた。まあ、記憶などという大層なもんではなく子供が脳内でごちゃごちゃ作り上げた、ただの空想なのかもしれないが。それでも利用できるのは事実なのだ。

火の国 木ノ葉隠れの里

夢に出てきたあの漫画に描かれていたことが、もし現実になるのなら。
もしもだ、俺が生きる今の延長線上にあるとするのなら。

何時の間にか爪が喰い込んでしまった拳を解き、深呼吸をして肩の力を抜く。
仲睦まじい父上と母上が再び一緒に暮らすようになって、新しく弟が生まれた。それはとても嬉しい。弟の目が両親と同一のものだったのも、喜びに拍車がかかる。
だがこのままでは弟は、これからも増えるであろう下の子たちは、戦争に駆り出されることになる。
初陣が明日控えている俺のように。

贅沢を言うのなら、あんな平和な時代で生まれたかった。だが、それはもう叶わないから。
ならば。
この戦乱の世を生きた先に、茶を啜りながら笑いあう俺たちがいる可能性があるのなら、精々生き抜いてやろうではないか。


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