4. コルボ山の猛獣たちを伸しながら道なき道を進んでいくと、ある境目を超えた途端に先程まであった鬱蒼とした木々が生えなくなっていた。ダダン一家の方角から見て北側、そこで強烈な異臭が漂う無法地帯に辿り着く。 「こんな場所があったんだな」 大量のゴミが山のように積み重なり、人相の悪い奴らが薄汚れた格好でそこかしこをウロつき、異臭の中になにか焦げているような臭いが混ざっている。よくよく見ればあっちこっちで太陽の自然発火が起きていた。ゴミが常に炙られてるんならこれ程の臭いも納得がいく。 「……ちょいと目立つか」 このゴミ山を偵察するべくまずは近くの大きな樹木に隠れながら荒くれ者たちの様子を観察する。彼奴等に比べて随分と俺は小奇麗な姿をしていたので、洗ったばかりのシャツを脱いで地上に浮き出た根っこに突っ込んで隠した。全裸になるつもりはないのでズボンはそのまま、ダッシュでゴミの中に突っ込む。 「ぷはっ!うっし、及第点」 全身に異臭がついたのを確認し、そこいらに落ちてる汚いタオルだかでかい布だかを拾い上げて上半身に巻きつける。これなら紛れ込めるだろうと、早速ゴミ山へと走り出した。 5. コルボ山を北に抜けた先にあるゴミ山―― 山の動物たちを相手に鍛えた身体能力で大門を登攀し、幼く小さい躰を利用して見張りにバレぬよう壁上から見下ろしてみれば、その格差具合がよく分かる。 「おーおー、これが階級制度って奴だな」 内側には端町、中心街、高町、王宮がある。今俺が踏みしめている石壁でまず一つ線が引かれ、内側でも端町と中心街の間には目には見えない線が引かれ、更に中心街と高町の間にはまた石壁が立ち塞ぎ、そしてこの国の中心に王宮がある。中世ヨーロッパを彷彿とさせる、教科書の見本になるような立地だった。 「……」 集団で屯するチンピラ。肩車をする親子。道行く人に声をかける販売員。黒い帽子を被った気難しそうで人を見下す雰囲気を持った男。 胡坐をかき、頬杖をつきながらぼんやり街を見つめているとあっという間に時間が過ぎ、夕方になっていた。此処からダダンたちの家に帰るまでにかかる時間を考えると、もう此処で遊んでいる猶予はない。仕方がないのでまた見張りにバレぬよう気を付けて石壁を降りた。爺さんの怒りを買うのを恐れている彼奴等は俺の帰宅時間にとやかく言ってくるのである。といっても、一般的な家庭の門限に比べれば圧倒的に遅い方なのだが。 「帰ったかユキナリ……」 ああ、と返しながら帰り道の途中にある川で仕掛けた罠にかかった魚を網ごとマグラに放り投げた。今日はゴミ山で推理小説を発見したので、暫くは家で休んでいる時も退屈しないで済む。黒ずんでいたが、ぱらぱらと中を確認したところページが破けていたり文字が読めなくなっていたりはしていなかったので充分だ。 「最近やたらと帰りが遅いじゃねェか、妙なもんを持って帰る回数も増えたし」 ダダンがじろりと俺が持つ本を睨みつける。あの場所を発見して以来門限ギリギリまでゴミ山を歩き回る日々だったからか、何時もなら俺のやる事にさほど干渉してこないダダンも流石に一言言いに来たようだ。 「……不確かな物の終着駅≠見て回ってるだけだ」 少し迷ったが、隠すことでもないので答えれば元々厳めしい顔立ちのダダンの顔が更に凶悪になった。 「あァ!?お前、あのゴミ山に一人で行ってんのかい!」 「色々と面白い物もあるし行き付けになってる」 「もし関わったら厄介になる奴らもいるんだよ、ガキがうろつくのはコルボ山だけにしときな!」 「俺があそこの連中と騒ぎを起こしてもアンタ等には迷惑かけねえようにするから別に良いだろ」 この二週間、なんの問題も起きなかったわけだし。そう言えばダダンは厭わしそうな表情で「好きにしな」と許可を出した。面倒な爺さんから押し付けられた面倒な餓鬼の保護者をしなきゃいけないってのは辛ぇなあ、ダダン。まあ精々頑張ってくれ。 戻る |