鎹鴉も常に専属の隊士の傍にいるわけではなく、本部からの連絡や他の鎹鴉との情報交換など、結構な頻度で飛び回っているようである。といっても、やはり仕事中は戦闘に巻き込まれない程度の距離で隊士の近くにいるらしいが。あと、鴉に石を投げてくる人間は皆死すべし、らしい。 以上、私の鎹鴉から教えられた情報でした。 「貴方の名前はなんと言うのですか?」 「俺ノ名ハ天王寺松右衛門!松右衛門サマト呼ベ!」 「よろしく松右衛門くん」 「サマダ阿呆!」 「木の実食べます?」 「食ウ!」 私の鎹鴉である松右衛門くんは口が悪く態度のでかいお喋り好きだ。それはもうお喋り好きだ。聞いてないことまでべらべらと喋ってくれる。肩に乗っているので、左耳がキーンとする。 「北西の町まであとどれくらいですかね」 「ゴックン。モウ少シダ!オ前ガ愚図愚図シテイタカラ到着ガ遅レテイルゾ!」 「兄姉弟子の墓参りの為なので致し方なしです」 「メシモット寄越セ!」 「デブりますよ?」 「デブリ?」 「太っていることを指します。迅速な移動が売りの鎹鴉がデブになるのは避けたいでしょう」 「コノ程度デデブランワ!ヴォケ!」 「では私がおやつとして食べようと思っていたこの饅頭はどうですか?」 「食ウ!」 暫く前に寄った町で、竹刀袋のついでに購入したおやつを懐から取り出す。包み紙を剥いで半分に千切ったものを口に放り込み、甘味を堪能しながら松右衛門くんの嘴に更に小さく千切った饅頭を渡していく。 「モウ一個買ッテタダロ!寄越セ!」 「お、目敏いですね」 「エッヘン!」 「ではジャンケンに勝ったら一つ丸ごと差し上げましょう」 「トットト寄越シヤガレ!」 「駄目ですぅー私が買ったんだから私に所有権がありますぅー」 「オ面割ッテヤロウカ!」 「今夜の私のご飯は鴉鍋になりそうですね」 お?お?鱗滝さんが私の為に作ってくださった厄除の面ver2に手を出すおつもりか?お?やったるで? 本部には他の隊士の鎹鴉に協力を得て事故死しましたと手紙を送ってもらいましょう。悲しい事件でしたね。ふふふ。 「ジャンケンノヤリ方ヲ知ラン!」 鴉なだけあって血の巡りは良いようだ。私は七割以上本気だった。やり方を知らないようなので、三竦みを利用した拳遊びだと教える。鴉には手がないのでグーチョキパーを口頭で表現してもらうことに。 「最初はグー、ジャンケン」 「パー!」 私が出した手は一つの指も出していなかった。残念、松右衛門くんの勝ち。 「俺ノ完全勝利!!」 「おめでとうございます、優勝者には饅頭をプレゼントします」 「竈門雪成オ前ノソレハ何ダ、方言カ?聞イタ事ナイゾ」 方言?ああ、プレゼントのことか。 「外来語ですね。日本語だと長ったらしく言わなければならない事も外の言語だと数文字で言い表せる場合があるので、便利なんですよね。公共の場での使用は控えていますよ」 フェイントとかカウンターとか、業界用語なだけあって本当便利。饅頭を千切って松右衛門くんの嘴に運ぶだけの仕事を熟しながら説明する。 「モシャッ、背中ノ箱ハ何ダ?」 「とても大事な物を入れています」 「仕事ヲ舐メルナ!大事ナラ持チ出サズ家ニ置イテオケ!ヴォケ!モシャッ」 「重々承知の上です、それでも箱は背負います」 「任務ニ支障ハ出サセルナヨ!モシャッ」 「ええ」 「モシャッオ代ワリ!!」 「おしまいです」 「カァァ!!」 嘴で突かれた。鋼鐵塚くんといい、最近頬を狙われる気がする。 「そうそう、私の事は雪成とお呼びください、長い付き合いにしたいですから」 「雪成ィィィィ!!」 松右衛門くんはとても賑やかで、移動中も退屈しません。 ぶっちゃけうるさい。 そうこうしている内に目的地である北西の町に辿り着いた。さて、まずは町の様子を見てみよう。 戻る |