「仕事の合間を見つけて兄姉弟子たちの墓参りを行いたいのですが、何処にありますか?」
「鬼殺隊及び鬼殺隊に入隊を希望した者たちの墓はお館様の屋敷近くにある、そう易々とは行けん。此方の山にも簡易的な墓は用意してあるがな……」

鱗滝さんの言葉に笑って、迷いなく狭霧山に置かれている墓に参ることを決めた。彼らは間違いなく、此処にいる。
鎹鴉は早く行けと急かすし、私も被害が出ているのだから早めに行かなくてはならないと思っている。しかし、私は彼らに世話になった身だ。これからは鬼殺の剣士として鬼狩りの日々が待ち受けているから狭霧山にも早々戻ってはこれない。
鱗滝さんから教わった墓の場所に駆け足で向かい、彼らの墓石を前に背筋を伸ばす。

「真菰、錆兎、貴方方には特にお世話になりましたね。皆さんも不出来な私を見守ってくださりありがとうございます。この後直ぐ鬼殺隊の仕事に赴かなければならないので、兄姉弟子たちに会いに来たと言うのに何の手土産も持たずに訪れたことはお許しくださいませ」

深々と一礼してから、おどけたように声の調子を上げる。

「鱗滝さんはもう大分お年を召しておられますので、私がいない間は鱗滝さんをよろしくお願いします。何かあったらスピリチュアル的な何かで私に連絡ください、すぐさま受信して駆け参じますから!」

だから外来語を使うなと突っ込んでくる錆兎が頭に浮かんだ。真菰には通じているから大丈夫だ。親指をぐっとあげながら笑う。

「では仕事がありますので失礼します。今度は土産話を沢山持ってきますからね、それでは!」

これで心残りはない。兄姉弟子たちの墓に手を振りながら鱗滝さんの家まで駆け足で戻る。

支給された隊服に着替えてみたが、如何せん西洋の服がモチーフにされているらしく和服に慣れ親しんだ私にとって不思議な感触だった。かつての私も滅多にスーツは着なかったですし、パリッとした服はあまり……しかし鱗滝さん曰く通気性が良く濡れにくく燃えにくく、しかも脆弱な鬼程度の攻撃は通さないという優れものなので、好き嫌いなど些事であった。

「刀を持った状態であまり堂々と街中をうろつくなよ、警官に捕まっては鬼殺隊の名折れだ」
「はい、途中の町で竹刀袋を購入しようと思っています」

やっぱり鬼殺隊の人達も一人か二人くらい廃刀令に触れて逮捕されてしまった人とかいるのだろうか。いや、呼吸法を習っていますし逃げられますよね、ははは。
雲柄の羽織を最後に着て、厄除の面を左側頭部に括りつけた。

「あとは、これを」

日輪刀が届くまでの間鱗滝さんが試行錯誤しながらトッテンカンテンと作っていた木箱を差し出される。

「昼間弟を背負う箱だ、非常に軽い"霧雲杉"という木で作った。"岩漆"を塗って外側を固めたので強度もあがっている」
「ありがとうございます!」

流石は鱗滝さん、何から何までありがたい。コンコン叩いてみるとがっしりした作りであることが分かった。試しに背負ってみる。……軽い!

「炭治郎、今後明るい時間帯に移動する時はこの中に入っていてもらうことになります。よろしいですか?」
「んー……むー、んー」

炭治郎はじいっと箱を見つめたと思うと布団に潜り込んだ。少し経って布団から出てくると二年前と同じように身体を縮めた状態になっており、すっぽりと箱に収まってくれる。

「よくできました。おや、私の羽織……持っていきたいのですか?」
「むっ!」

脱いだ羽織を頭から被った炭治郎にこくこくと頷かれた。これからは鱗滝さんの弟子として、最終選別の際に受け取った雲柄の羽織と厄除の面に衣替えし、以前まで着ていた黒と赤の市松模様の羽織は兄姉弟子たちと同じように家の箪笥に入れて貰おうと思っていたのですが……

「箱の中に何もなかったら寂しいですものね」
「ん〜」

緊急事態の時はどうしても箱を揺らしてしまうだろうし、気休めでもクッション代わりにはなるかと炭治郎の頭を撫でて扉を閉めた。

「神楽と新八はこれからも遊びに来ると思いますので、よろしくしてやってください」
「暇を持て余す老人には有り難い相手だ」

炭治郎の入った箱を背負い、脚絆を履いて外に出た。

「それでは、鱗滝さん」

忘れ物があったら洒落にならないので何度も準備確認をした後、鱗滝さんに向きあうと「ちょっといいか」と言われながら隊服の一番上のボタンや布のズレなどを直される。首元まできっちり締まっていると息苦しい。

「うむ」

最後にぽんと二回肩を叩かれ、その優しい手つきにこれで一旦お別れだと物寂しい気持ちが少しばかり滲んでくる。鱗滝さんは第二の父のような、祖父のような人だった。

「落ち着いたら手紙を出します、鎹鴉に任せれば届きますよね」
「ああ、仕事の成功を祈っている」
「この厄除の面がある限り大丈夫ですよ」

行ってきます、と大手を振って鱗滝さんとお別れをした。

(――……良い風だ)

私の進む先を手助けするように、風が吹く。
また此処に帰ってこよう。また皆と話そう。そう心に決めて、鎹鴉が告げた鬼の居場所を目指した。


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