会う鬼会う鬼に『鬼を人に戻す術を知らないか』と問いかけ続けた。
しかし、質問の答えは元よりまともな会話すら実現しない。初日に出会ったあの鬼を除き、藤襲山には人を喰べた数が極端に少ない鬼しかいない。喰べた数が少ないという事は最も人に近い状態である筈なのだ。だというのに会話が出来ない。

(これが鬼か)

炭治郎を人に戻すという私の目的が辛く遠い道であるのは分かっていた。覚悟はしていた。しかしそれでも甘かったらしい。殆どの鬼がああいった振る舞いをしているというのなら、人を多く喰べた鬼が初日の鬼のように振る舞うというのなら、成程冨岡さんの反応も頷ける。
寧ろよくもまあ私の戯言を信じてくれたなと感心してしまうくらいだ。
炭治郎が寝ている以上当時の出来事を確かめることはできないが、私が気絶してしまった後、きっと何かがあったのだろう。炭治郎が行動を起こしてくれた。恐らく炭治郎は気絶した私を庇ったのだ。

(となると……やはり上の連中を納得させるには実演する必要がありますね)

炭治郎は人を襲わない。
欲を言えば、炭治郎は人を助けることが出来る、そこまでいきたいところ。その確かな証拠を突きつけることができれば、お館様はきちんと一考してくれる。鱗滝さんがそう仰るならきっとそうだ。
しかしこのまま炭治郎の睡眠が続くというのなら、何処か人目につかない場所に隠さなければならない。あの炭治郎を連れて鬼殺隊として動くことはまず不可能だ。……存在を公認させることが出来るなら、その方が絶対に良い。

七日の間で雨が降るという事態が起こったが、この二年間の修行で雨天中でも差し障りなく動けるようになっていたので視力と気配の索敵で乗り切った。
此処の鬼たちは藤襲山に閉じ込められて気が立っている。どいつもこいつも話の通じない鬼ばかり。しかし何事も例外はあるので、逃げ回っている他の受験者を横目に私は会話が可能な鬼を探して走り回った。
だが発見しても襲い掛かられるだけ。仕方が無く斬り捨てる。昼間は鬼たちはぱったり姿を見せなくなる為休息に当てて、生えている木の実を取って食べ腹を膨らませ休眠。夜になると鬼を探索。それを繰り返しているうちに七日後、試験最終日を迎えて麓まで下りた。

「あっ!!お前!!お前お前お前お前うおおああああ!!!」

入り口に戻ると先に辿り着いていた金髪の少年に指差された。なんです、朝っぱらから?

「どうかしましたか」
「お前に唆されて山に入ったらエライ目にあったんだよ!!俺を喰べようと探し回る鬼がうようよしてさぁぁぁああ!必死こいて逃げたよ!!気絶したよ!!責任とれよ!!!」
「元気が有り余って御壮健ですね」
「身も心もぼろぼろだわ!!!」

どちらも元気百倍アンパンマンじゃないですか君。それに再会できて嬉しいと思ってくれていることが匂いでも分かる。

「お帰りなさいませ」
「おめでとうございます、ご無事で何よりです」

再びあの双子が話し始めた。どうやら試験をクリアしたのはこの場にいる四人のみらしい。諦めてリタイアしたのか、全員喰われたか。

「死ぬわ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、ここで生き残っても結局死ぬわ俺」
「で?俺はこれからどうすりゃいい。刀は?」

相変わらずぶつぶつ言っている金髪の少年と、顔に傷がある少年と、傷も汚れも何一つない少女。この三人が同期になるのですか……少女からの強キャラ臭が半端ないですわこれ。雨降りましたよね?傷はともかくどうして汚れまでないんでしょうか。同期の中で現時点一番強いのは間違いなく彼女ですね。
双子が説明の途中でパンパンと手を叩くと、修行中に幾度も鱗滝さんに手紙を届けたあの鎹鴉が私にも支給された。

「鎹鴉は主に連絡用の鴉でございます」

(……なるほど)

普通の隊員にとっては便利な連絡係なのだろうが、私の立場では鬼殺隊からの刺客にも思えてくる。動物は勘が鋭いですからねえ……どうやって炭治郎を隠そうか。とりあえず後で餌付けをしておこう。
隣に立つ金髪の少年には鎹鴉という名の雀が支給されていたが、可愛いのでそれはそれでありだと思う。

「ギャアッ」

あ、傷の少年が鴉を苛めている。殴られて飛ばされた鴉は金髪の少年が慌てながらキャッチ、介抱してくれた。

「どうでもいいんだよ鴉なんて、刀だよ刀!!今すぐ刀をよこせ!!鬼殺隊の刀!!"色変わりの刀"!!」

双子の片割れである白髪の方の子供を殴りつけ根元から髪を掴む傷の少年。

「これから造ってくださると説明されたではないですか、放してあげなさい」
「十日も待ってなんかいられっか!」
「それは君の都合でしょう?自分専用の刀が渡さ」
「うるせえ!とっとと寄越せ!!」

この少年はやけに逸っていて余裕がないらしく、此方の話を聞いてくれない。説明も進まないし、しょうがないので実力行使に出させてもらおう。少年に近寄って子供の前に立ち塞がる。

「三秒以内に手を放してください」
「なんだテメェはさっきから、うぜえんだよ!」
「一、二、三……残念です」

力加減を誤ったらごめんなさいね。子供を掴む腕に手刀を落とし無理やり外させて、拳を握って頭を叩く。

「グッ!ごはぶっ」

「ギャアアアアァァッッ抉りこんだあああ?!!?!?」

ああうまく出来た、よかった。首から下がきっちり地面に埋まった少年を見下ろしながら安心する。この世界にはあんまり騒がしい馬鹿と出会わないので私は一回もやったことがなかったのですが、ここにきてまさか拳骨を振り下ろすことになるとは思いませんでした。

「うぁ、あ……な、なんだこれ!?」
「意識はあるようですね。……大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」

子供の左目付近は軽く痣になっているし口元は血が垂れている。痛いだろうに健気にも我慢している子供の頭を撫でながら、乱れた髪を手櫛で整えた。

「お話は済みましたか?」
「中断させてすみません。どうぞ」
「ではあちらから刀を造る鋼を選んでくださいませ。鬼を滅殺し、己の身を守る刀の鋼は、御自身で選ぶのです」

覆いかぶさっていた布を黒髪の子供が引っ張ると、多種多様な玉鋼が現れた。うーん、既に出来上がっている刀を目利きする方法は分かるのですが、玉鋼となると……あっ、というか、このままだと地面の少年って玉鋼選べないですね?

「てへ、うっかりうっかり。その位置からだと見えないですよね君は」
「ああ!?舐めてんのかテメェは!!?」
「すみませんが場所を動かしてもいいでしょうか?」
「構いませんよ、持ち運ぶ時は欠けさせないようお気をつけて」
「はい」

脱出しようとジタバタしながらぎゃんぎゃん騒ぐ少年の前に全ての玉鋼を移動させ、腰を下ろした。金髪の少年とさっきの話にも何一つ反応を示さなかった少女も玉鋼を観察し選ぶ為に取り囲む。

「知識が無いので何を基準に選べば良いのかさっぱりです」

誰も彼も無言で玉鋼を見つめているが、少女を除いて皆困惑していた。

「深く考えず、直感でお選びください」

はあなるほど。……では、何の意味もないとは思いますが……この中で一つだけ、少しばかり炭に似た香りが混ざっているあの玉鋼にしておきましょうか。

「私はこれにします。君も選び終えたら言ってくださいね、持ちますよ」
「死ね!!!」

今時の子は口が悪いですなあ。ってなんで金髪の少年はドン引いた目で見てくるんです、喧嘩なら買いますからね。


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