夏夜に唄う


夏は夜、月の頃は更なり

そう唄ったのは誰であったか。さてもあまり宜しくない頭を回転させ、野薊は宙で一回転した。



白く濁った白煙が尾を引くように野薊が回転した軌道を描き、空気に溶けて消える。野薊は暇を持て余していた。


天寿を全うする様が見たいと野薊が憑いた男――人々からは凶王と恐れられている石田三成は自室に籠もりきり。食事も睡眠も採らないと女中やら部下やらが嘆いている。


(秀吉様とやらが死んで、丁度、一年)


喪に服するという意味合いで自室に籠もって己の無力さを嘆く三成を野薊は理解できないでいた。


人間というのはすぐにどうせ死ぬのに(妖怪には死の概念がない。消滅、消えるという概念はあるが、それも陰陽師か退魔の法具を使わなければ消えることはないため、懸念するほどの問題ではない)何故他人を悼む時間を必要とするのか。


(理解出来ない)


私たちなら消えてしまったからはい残念と、割り切ってしまうのに。野薊は宙を滑るように動き、三成の部屋の前まで来た。
月夜が三成の部屋の障子を照らしている。今日は満月。野薊たち妖怪が一番力増す時間だ。


(つまらない)


三成はよく野薊に祟り殺す相手を指定する。

それは東軍に付いた裏切り者だったり、東軍に元々いた人間だったり。(そういえば進軍の邪魔だからという理由で村一つを祟ったこともあった。あの時は一人ひとりの命を消す感覚が蟻を潰す感覚に似ていて、とても楽しかった。三成は相も変わらず褒めてはくれなかったけど、表情が緩くなっていたから、おそらくは東軍の末端でも戦いが早くなることが嬉しかったのだろう。
良かった良かった)

話がずれ込んだ。
とりあえずは喪に服している間、野薊は三成からの指示を受けていない。


(家康に手を出すと怒るし、誰を祟れば三成が早く立ち直れるか、知らない)


かつて一度、野薊は家康の命を狙った。その際も今日のような月夜で、首を締め上げ、さっさと殺してしまおうとしたが、首を締め上げた途端、家康に憑いていた(というよりか家康のいた江戸城に憑いていた)座敷童子が彼女の邪魔をし、撤退する羽目になったのだった。

野薊もただでは撤退せず、座敷童子を二週間ほど行動できないような大怪我を負わせたのだが。








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