二人の為の聖教曲/↑更に続き
前の続き。
迎えだという軍用ヘリに揺られ(家の前に軍用ヘリがいた時は一瞬我が目を疑った)、辿り着いたのはディエゴガルシアでした。
いやいや冒頭から何を言っているんだ。
しかも、大佐だとか言う人からはナチュラルに自己紹介され、車がロボットに変形するところを見たりと、色んな意味でどきどきしっぱなしである。なるほど、これが巷で有名なトランスフォーマーかと冷静に納得していると、その大佐の奥さんに熱烈なハグを受けた。
「本当、本当にセレン!?ああ信じられないわ!本物!?」
「本物ですよ。何なら何か演奏しましょうか?」
「そんな!!でも聞いてみたいし…」
「サラ、演奏するにも「ここ」だと失礼だろ?」
基地のど真ん中、開けたヘリポートである。こんな場所で弾きたがるヴァイオリニストはいない。だが、「いない」なら「やる」のが私流の弾き方であった。
無言でヴァイオリンケースを開き、手早く空気の質に合わせてヴォイオリンを調整する。外気に晒す時間はできるだけ短くしたほうがいい。
あごを乗せて弓毛を滑らせた。
音の響きが圧倒的に悪い。
室内と室外の差だ。なら、もっと奏でてやればいい。音が響かないならテンポ数を増やして、短く音を切る。
まるでカーニバルだった。
音を聞いたツインズや、ノリの良いジャズはセレンの音をBGMに踊っていた。
あまり馴れ合いを好まないブラックアウトやバリケードですら、踊りはしなかったが、指でリズムを取っている。
ぎゅん、と曲が終わる音を鳴らし、弓毛を離す。
巻き上がる拍手に、額に浮かんだ汗を手で拭った。
「即興曲、題は「陽気な友人たち」」
サラは呆然としながらも凄い凄いと拍手を繰り返していた。トランスフォーマーの方々も満足していただけたようだ、良かった良かった。
オプティマスが何かを言いかけた瞬間、風が巻き起こり、エイリアンジェットがセレンから少し離れた場所に着地した。
エイリアンジェットが割れ、体が汲み変わっていく。機械のロボットになったエイリアンジェットは巨大で、私なんかこのロボットの指一本分しかない。
「わ、あ」
「「雲」を、聞かせろ」
「!?」
その声は確かに「彼」のものだった。
「……聞かせたら、あなたの名前を聞かせてくれますか?」
「それはお前の実力次第だ」
「それも、そうですね」
音が悪いだろうが、私は「彼」のために雲を奏でた。先ほどまでの周りの騒がしさは消え、静かで、涼やかな音がディエゴガルシアに響く。
「メガトロンだ」
曲が終わった途端、彼改めメガトロンはそうセレンに名乗る。
「……セレンです。ようやく、あなたの名前が聞けました。」
愛おしく目を細め、セレンは何倍も大きいメガトロンを見上げた。
「また、あなたの音を聞かせてもらってもいいですか?」
そう問えば、メガトロンはオプティマスや部下たちを見渡す。どことなく居心地の悪そうな感じで、「星夜に、あの場所でなら、聞かせてやってもいい」と、僅かに呟いたのを、私は確かに聞いたのだ。
二人の為の聖教曲
二人の関係は!?と問い詰めるレノックスが間に割って入るのは、あと十二秒あとの話。
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