君が為の協奏曲/↑続き

「私の為の夜想曲」続編。きっとそれから5〜7年くらい後の話。



レノックスは唸りながら、スマホの画面やパソコンの画面を見比べている。


「あーっ!くっそ!また値が上がりやがった!!」


「大佐、一体どうしたんだ?」


「ああ悪いな、オプティマス。ついオークションに熱くなっちまった」



近くで高級なソファに腰掛けながら書類の目を通していたメガトロンが騒々しい、と呆れた。



「お前ら、セレンって人気ヴァイオリニスト知ってるか?」


「?…いや、アイアンハイドが名前を言っていたが、私はそういうものに疎くて」


「俺もだよ。大将。いやな、サラが…妻がすごく気に入ってるヴァイオリニストでな。ヴァイオリン一つでジャズもクラシックもはたまたアニメでもゲームサウンドでも何でも弾く天才なんだよ。その音の清涼さとか重厚感が凄くて一部じゃ「ミューズ(音楽の神)」とか呼ばれてる。そのセレンのライブが近々あるらしくて、サラが行きたいって言ってて、販売一時間でソールドアウトしたチケットをこうしてオークションで捜してるってわけで…っと、ほら、これがそのセレンだ。」


ふと、メガトロンが顔を上げる。
パソコンの画面には、いつか見た少女の面影を残す美しく成長した一人のヴァイオリニストの姿が映っていた。



「…おい」


「ん?どうした?メガトロン?」


「そいつの曲はあるか?」


「あ、あるぞ。待ってろ」


パソコンのスピーカーの音量を上げ、ミュージックファイルから「協奏曲(コンチェルト)」と題された中の一曲を開く。

機械越しでも分かる曲のクセ、一回聞いただけだが印象に残る高音に上げる時のネックの楽しげに鳴く音、変わっておらんな、零した呟きに、レノックスが何?と眉を顰めた。



「その女の曲が聞ければいいのだろう?」


「メガトロン?何をする気だ?拉致とか誘拐とか脅迫はダメだからな?わかっているな!?」


「そのようなことをするか。安心しろ。あっちから来るようにしてやる」

















赤色のスマホ、ストラップは赤色の強いガーネットの小さい石。「あの人」の目のような赤が、大好きだった。そのスマホが非通知の着信を告げたのは、連日のインタビューや雑誌の写真撮影を終え、自宅に戻ってすぐのことだった。


(?誰だろ?)


もしかしたら、登録をしていないプロダクションの人かもしれないと、通話ボタンを押して耳に押し当てる。


「もしもし?」


『……』


「(悪戯電話?嫌がらせ?)…あの、どなたですか?」


『なかなか聞ける音になったではないか。セレン』



一瞬誰かわからなかった。しかし、長年鍛えられた「耳」がその「声」をきちんと記憶としていて、思い出す。あの星夜のことを。はくはくと乾きだした口から搾り出せたのは「あなたの音には敵いません」という謙遜の言葉だった。



「あ、の」


『明日は』


「はい?」


『明日は、暇か?』


「!! 暇です、暇にしますっ!」


確か明日は久しぶりに帰省しようかと思っていたが、この流れは会う流れだと、この機会を逃してなるものかと見えてない相手に対して頷いた。


『明日朝に、家の前に迎えを寄越しておく』


「は、はいっ」


『乗るも拒否するもお前の自由だ。ただ、』



そこで言葉を切る。



『お前の「音」を直に聞きたい』



「もう一度聞きたいと思えるような音」

私はあなたのそれになれたのだ。


目の表面に浮かび上がり、許容を超えて流れ落ちる涙を止めることもせず、セレンはただはい、はいと返事をするだけだった。



「必ず行きます、必ず、あなたに会いにいきます、絶対に」










ごめんなさいまだ続きます。
電話を繋いだのはきっと音波さん。

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