おい、と頭上から声が降ってくる。続いて、ぺちぺちと軽く顔を叩かれ、思わず眉を顰(ひそ)めた。起きたくないと頭(かぶり)を振り、手を伸ばすとすぐにふかふかの布の感触。引き寄せて顔を埋めると、頼むから起きてくれと困ったように声が降る。

重い瞼を押し上げ、私は固まった。

ザッカリーが何故目の前にいる?
あ。ちなみにザッカリーね。ニャッカリーじゃないほう。


「やぁ、ようやく起きたのか?」


「お、……おはよう?」


ザッカリーは両腕を私の顔の両脇に置いて、私に乗っかっている。



「……悪い、もう、腕が限界だ…」



え、と思うよりも早く、ザッカリーの腕から力が抜けた。腕で体を起こしていた分がなくなり、ザッカリーは完全に私の上に乗った。というより、重なった。


「あ、あのこれ、どうなって」


ザッカリー越しに天井を見ると、なんかおかしい。妙に近い気がする。ザッカリーの脇から手を伸ばし、天井に向かって手を伸ばすと、関節が伸びきったあたりで手にごつ、と何かがぶつかる。


「大人しくしなよ。シノブ。これから無理矢理出るとアンタも俺もリセットされちまうよ」


「リセット?」


「バッターがOFFにした後、世界は無になる。それはアンタも知ってるな?」


「………うん」


ガーディアンをたおした後の世界は真っ白で生き物のいなくなった世界だった。それが、きっとあの世界が全部に満ちるのだろう。


「だけど俺は何故か「消えない」。リセットされる間は「保護プログラム」の中に入れられるんだ。」


「つまり、OFFにした世界がリセットされていて、その間はこの箱……保護プログラムの中にいる。ってこと?」


「そうさ。流石だね。理解力のあるプレイヤーで俺も助かっているよ」


ザッカリーが身じろぎをした。
髪が首筋に触れ、くすぐったい。



「ザッカリー、もうちょっと、体勢なんとかならない?くすぐったいの」


「俺にはなんともできないよ」


「困ったなぁ…」


シノブの体からは女性特有の甘い汗の匂いと、丸みを帯びた膨らみが密着した触覚を通して分かる。
言ってはなんだが、ムラムラする。狭い場所で、二人きりで、こんな密着していれば気の迷いも生じるというもの。


「シノブ」


「なにザッカリー?」


「手、両手だ、手を俺の頬に添えてくれないか?そう、うん、ありがとうよ」


言われるがままにザッカリーの頬を両手で挟むようにして添えると、ザッカリーはにやりと笑った気がした。仮面の下では分からないけれど、笑った気がする。


「仮面を少しだけ押し上げてくれ」


「え?いいの?素顔NGじゃないの?」


「鼻元までな。全部は駄目だぜ。」


「あ。呼吸か。確かにそんな仮面付けてれば呼吸苦しいもんね」


素直にシノブは仮面を鼻元まで上げる。
と、次の瞬間、俺は油断しているシノブにキスをしてやった。頬に添えられた手がまるでシノブからキスを乞われているようで、また興奮する。


「ん、ぅ、!?」


驚きで手を離し、俺を離そうと胸や肩や顔を押すシノブの手を掴み、床に押し付け思い通りに蹂躙する。

唾液を送り、歯も舌で上も下も撫でてやり、舌を掬いとって絡め合う。その度にくぐもった声が狭い空間に響き渡る。

鼻で息ができず(キスすら慣れてないんだな)、口も抑えられ、酸素が足りなくなってきたのか、シノブの抵抗が弱くなる。

その瞬間を見計らい、口を離してやると、とろんととろけたお顔のシノブちゃんの完成である。


「悪いな。シノブ」


片手を胸に、もう片手をシノブの下着に這わすと、酸素の足りない頭でもこれからしようとしていることが分かったのか面白いくらいに体が跳ねた。



「恨むなら、バッターにOFFにさせた自分を恨んでくれ。OFFにならなきゃ、俺に犯されることもなかったんだからな」



酷い言葉をあえてぶつけた。
怯えながら涙ぐんだ目を向けてくるシノブにも欲情する。わずかな良心と、ほんの少しの愛情でザッカリーはシノブの額にキスを落とし、柔い体を貪った。