今にも鼻歌でも歌いそうなほどに機嫌の良いセネカは、ひとつの部屋に入った。何もない暗い広めの室内には、叫び声が響いていた。


「愛しいシノブ、偉大で聡明な人形師殿、今日も良い子にしていたかい?ご褒美を持ってきたよ」


部屋の真ん中には死体から生み出したバッターの姿をした人形がいた。その姿は片目がなく、傷だらけの血まみれで、腕も変な方向にひしゃげている。
生きていられるのが不思議なほどの損傷。
その彼の隣に座り、俯きながらオルゴールを鳴らしながら僅かに細く歌うのは、セネカがようやく手に入れた、世界の住民を上手く動かすための操作盤、プレイヤー、シノブである。



「今度のはあまり弄っていないからね、造形はまだ見れるものだとは思うよ」



セネカは部屋に、どちゃりと粘着質な音を立てる何かを放り投げた。
シノブは俯いていた顔をようやく上げ、その音の方向を見る。薄暗い室内でも十分に分かる特徴的な猫の仮面を付けた、その人物。



「……ざっ、か、りー」



いつから歌っていたのか、彼女の声はかすれていた。シノブはふらふらと立ち上がり、その放り投げたザッカリーのそばに膝を着く。
彼もまた、死体から作り出された人形だ。
首は半分ほど切られていた。骨が見える。
服が赤黒く染まっていたので服の上から触ると、肋骨に触れた。肉らしい厚みがない。右手を見れば、指が全部切り落とされている。

かわいそうに、ザッカリー。
苦しいのね。あなたも痛いのね。



「わかっているね?シノブ、これは君へのプレゼントだ」

「プレゼントを没収されたくなければ君はよく私に仕えなさい。その身に余る能力を私のために使えばいい」



没収。すなわち、処分だ。
ザッカリーはそんな体でありながら何かを叫び、シノブに這い寄る。

よく見れば、そういう人形は一体ではなかった。三体が縋るように彼女に近寄る。四体目はもう動かなかった。



「あぁ、猫の人形は死んだのか」

「かわいそうに、シノブ」

「此処で良い子にしていたなら「また」作ってあげよう」


「………」



ザッカリーはシノブに触れた。
冷たい、死人のぬくもり。
這って縋って、叫んで泣いて、それでも死ぬことができないお人形。

私はもう、泣けなかった。
バッターの人形をもらった時はただただ恐怖した。
ジャッジの人形をもらった時にひたすら泣いた。
ザックのなり損ないをもらった時、私の心は死んだ。


ザッカリーの右手を握り、バッターの左手を握り、ザックのなり損ないに抱きつかれながら、シノブは目を閉じ、乾いた唇から細くまた歌い出す。



「イヒ、ヒヒ。嗚呼、良い子だシノブ。それでいい。人形師は人形師らしくお人形遊びがお似合いだよ」


セネカは出入り口の扉を、静かに閉める。
光源僅かな世界の中、死体人形のザッカリーやバッターが叫びと共に常に発する不可解な言葉の中に逃げろ、戦えと言っていたのを、シノブは知らなかった。


彼女は何も見ないように目を閉じ、叫びを無視し、痛みを甘受することに決めたのだから。






<不幸な鳥籠>











※クイーンが亡霊を使った理由(人間が思い通りにならなかったから)

世界を作った神ですら人を思い通りにできない

つまりはセネカの作った人間たちは知能がないから今はセネカに従っているだけで、知能がついたらセネカの意思から離れるんじゃないか。

セネカはプレイヤーのことを「Dear sweet ××(親愛なる××、または愛しい××)」と最初呼ぶ。

バッターやジャッジに対しては「お前たちには死んでもらう」とは言ったが、プレイヤーには「殺す」とも「死んでもらう」とも言っていない。

むしろプレイヤーには優しかった(なんでもあげよう。お金?家がいい?人形は?人形は好き?とか言って停戦を求めてる)

セネカはプレイヤーを殺したくない理由がある。

プレイヤーが持っているのはキャラクターをの操作できる権利。

セネカは人を思い通りにするためにプレイヤーのキャラクター操作の権利が欲しかった。

権利のためにはやつは飼い殺しくらいやってのける。そういう奴だ。


で考えついた。