メタルでできた冷たい床に、強く体を打ち据えた。頭も一緒に打ったようで、視界がぐらりと揺れる。

全身が炎に放り込まれたように熱い。しかし、その熱はお腹に開いた傷からみるみるに抜けていく。

これが何度目の死であったろうか。
もしこれが「ゲームの中の世界」でなかったら私は死んでいるところだ。


霞んだ視界の中、私を無残な肉の塊にしてくれた人物はしあわせそうに笑った。



「痛いか?」


「………う、ん、まぁ、痛い」


猫の仮面の、かつてはアイテム商人だった人物、ザッカリー。
私と同じ、このゲームにおいてイレギュラーな存在である彼は、床に倒れた私の腰あたりに座り、腹に再び愛用のハロルドの剣を突き刺した。

悲鳴というか絶叫を上げる私にザッカリーは構わないとでも言うように腹を刺し、腕を斬り、そしてニ、三回それを繰り返した後、のけぞった私の顎の下、首の上部分に(ちょうど顎裏の、くぼんでいる場所だ。此処に剣やナイフを突き刺せば骨や筋肉の妨害を受けずに人間を殺すことができる人体の急所の一つである)剣の切っ先をひたりと当てる。


「あ、れ……?も、い、いの?」


「どうせまたお前は生き返るんだろうさ。その時また殺してやるよ。時間は「有限」だ。早いに越したことはない」


なにを言うんだ。
私とザッカリーはこの世界において無限で不死の存在なのに。
さっさと私を殺して、私は生き返るからまた殺してやると、そういうことか。まったく。


「つぎは、ちゃん、と、おわらせる、から」


みんながしあわせになれないかもしれない。でも、ちゃんと希望があるおわりかたにする。


それだけを言い、私は震える手で剣の刀身を掴んだ。切れ味の良い剣は私の指を簡単に斬り、そこからも血が溢れ出す。

私は目を閉じ、自らの手で、剣を引き寄せ、首に突き刺した。


































なんでこうも上手くいかない。
死体になったシノブから降り、彼女の死体を見下ろした。


初めて会った時、彼女は四角く切り取られた空間でバッターに話し掛けていた。
俺が挨拶をすればにこやかに「はじめまして」と返してくれた。かわいいなと思った。


スイッチをOFFにした後、彼女は一人泣いていた。違う違う違う。こんな世界にしたかったわけじゃないと、画面からこぼれそうになるくらいに涙を流していた。


だから一緒に世界を直そうと誘った。
彼女はすぐに協力してくれた。
しかし、結果は無残なものになってしまったが。


セネカの生命力吸収装置、あれに巻き込まれ、俺とシノブは死んだ。
操作パネルの存在を知ったシノブがパネルをいじったことで、爆発し、欠片が頭に突き刺さって失敗したこともある。

うまくいかない。

ただ世界をONにして、昔の世界を取り戻したいだけなのに。


やがてもどかしさは苛立ちに変わる。


失敗し続けるのはシノブのせいだと思うようになってきた。事実、シノブのせいでもあるが。


「わかっているさ。こんなことして、何にもならないのは」


むしろ世界を直すには導き手である彼女が生きていたほうがいい。
しかし、だめだ。彼女を見る度に苛立ちが募る。しあわせそうに微笑んで世界を消しに来るのだ。彼女は何も知らない。浄化と銘打つ破壊行為であると。彼女さえいなければ、彼女がいなくては、嗚呼畜生、畜生、畜生。


「恨んで愛して殺して犯して愛でつづけなきゃならないのが、苦痛で仕方ない、おわらせてくれよ、早く速く」





俺はただ、しあわせになりたいだけなのに。



メタルの床にザッカリーは膝と頭を抱えて座りこんだ。彼の呟きに返答を返す者は、誰ひとりとしていない。