目の前にいたのは異形の怪物だった。
多数の腕、人間のものと思われる腕がほとんどだったが、中には虫にも似た細く、節に棘のあるものや、腐って骨が見えているもの、獣のものと思われるものが何本も生えている。
その腕を支える体は巨大で、芋虫にも見えた。
四つん這いで、その怪物に顔らしい顔はない。黒い突起に赤い眼が二つ、舌を出し、涎をだらだらと流していた。鼻や耳はない。
声帯があるのかも不明だが、セネカを倒した後にまさかこんな怪物がいたなんて、ザッカリーは舌を打った。セネカとの戦いと、生命力吸収装置のせいでほとんど闘う力は残っていない。
「ゼッカリーは下がってて」
シノブが前に進み出て、ハロルドの剣を怪物に向ける。
バッターもアシュレイのバットを怪物に向けた。
「あ゛…、あ……、ば、Aa61/bnaるhjhps72,#い|>vn????」
怪物は声にならない声を上げる。
ずる、とシノブに向かって一歩を這い出した。
「バッター、私は腕を切る。本体は任せた」
「わかった」
二人が踏み出した。と思うより先にシノブが多数の腕の一本を切り落とした。
切り落とした腕は勢いよくザッカリーの足元に落ち、一度跳ね、二度跳ね、三度目でようやく動きを止めた。
切り口はお世辞にも綺麗とはいえない。思い切り強く叩き切ったせいか、断面はぎざぎざである。眼にも止まらぬ速さで一本、また一本、と腕を切り落としてゆく。
その空いた懐目掛け、バッターがバットを振り下ろす。ごぎゃ、と嫌な音がして怪物は悲鳴を上げる。
なるほど痛覚はあるらしい。
ふ、と息を吐き、シノブが腕をまた切り落とした。跳ね落ちる腕にふと目を止める。全ての腕が指を開き、助けを求めるようにこちらにのばされていたのに、この腕だけは指を折り、「何かを抱くように」腕を竦めていた。
(……?)
指の間に黄色い何かが見える。
バッターを見るが、不利な状況ではない。ハロルドの剣で指を開かせて、目を見張る。
黄色いのは、ぬいぐるみだった。
血で汚れていたが、間違いない。だってこれは、私が作ったものだもの。
「……ザック?」
なんで、ザックにあげたひよこのぬいぐるみを?よく見れば、腕は細く短く小さい。子供、みたいな――。
「バッター!!!」
血が冷めた気がした。急いで振り上げられたバットを無理やり掴み、武器を下ろさせる。
「何をしている!?シノブ!?」
「ダメ、攻撃したらダメ!!この子はザックだ、ザック本人なのか、ザックが中にいるのかはわからないけど、ザックがいるの!」
ザッカリーがなに?と聞いてくる。
怪物は、ずるり、とまた這う。
「ザック、ザックなの?中にいるの?ザック本人?」
「い、あmpmpeb./!-だ#D0.G204ad0m.」
怪物はもう、シノブの目の前にいる。
ザッカリーも重い体を無理矢理動かし、剣を握る。
「誰が、ザックをいじめたの?」
「?jgftg0お、3g?.cと、さT、」
ノイズ混じりの声で、ザックは確かおとうさん、と言う。ザックの父親、嗚呼忌々しい、またお前か、セネカ!!
「………シノブ」
「『失敗』だ、この世界も失敗だよ。ザッカリー。ザックが化物になってしまった。終わらせなきゃいけない。」
「どっちが死ぬ?」
「私。ザックごと殺して」
バッターは二人をただ見つめていた。
止めることをシノブに止められているから。シノブは剣を置き、化物になったザックに腕を伸ばした。
「ザック、おいで。抱き締めてあげる。疲れたでしょ?痛かったでしょ?もう、いいんだ。二人で一緒に眠ろう。」
「np.i?a20PJ!?」
怪物は素直に顔をシノブに擦り寄せた。
やはりこれはザックだったのかと、ザッカリーは舌打ちをして、剣を、突き刺した。
シノブの胸を刺し貫き、ザックの頭を貫いても、何度も、抜いては刺すを繰り返す。
やがて、二人は動かなくなった。
シノブはザックを抱き締めて、笑いながら死んでいた。次の瞬間、ざらり、とバッターとザッカリーの周りの空間が歪む。
「BadEndだ。おやすみ、シノブ」
画面が真っ暗になり、赤錆た赤色へ画面が変わる。画面の真ん中にはgameoverが浮かんでいた。
ENDING Despair、Death、Die
Retry?
○YES NO