組合(ギルド)とは簡単にいえば同じ目的の者たちが集まって作る寄り合いの組織である。
ミラが棲む王国の首都には大まかに分けて4つの組合がある。
戦士組合 主に商隊(キャラバン)護衛、貴族護衛等の武によって事を成す目的を持つ者たちの寄り合いである。街の自警を担当し、度々ミラと対立したり協力したりしている。
盗賊組合 裏社会の組合で、名の通り窃盗や密売を目的とする。しかし宝石商や質屋、骨董商もこの組合と繋がりがあるため、商売人にとっては切っても切り離せない組合だ。
暗殺組合 依頼人から殺しを受け、人を殺す組合である。邪魔者を消す、という上に上り詰めるために必要な行為を請け負ってくれている。私怨で人は殺さず、また依頼人について口を滑らすこともない。
商業組合 貿易などの商業取引を受け持つ組合。ミラが特に世話になっている組合だが、ほとんどの権利はミラが握っていると過言ではない組合だった。
そのトップたちの話し合い、それが「会合」である。
会合はとあるレストランで開かれる。 ミラの姿を見るや否や、支配人らしき男が頭を深々と下げ、レストランの一番奥の部屋に通された。
重々しい扉を開くと、わずかに水煙草の香りがして、三人がテーブルの前に座っていた。
「遅いですわ、ミラ」
水煙草を吸うのは、暗殺組合のトップであるアラクネだった。
「出掛ける前に少しトラブルがあって。でもすぐに解決したわ。」
「おやまぁ、それは災難だったねェ」
素顔を晒さないよう仮面を被り、黒衣に身を包む、その姿から「死神」の異名をとる戦士組合の頭はお気楽そうにレストランが出した珈琲に口をつけた。
「それで?商業組合はどうしたの?」
盗賊組合のトップ、メドゥーサがそう問う、彼女の後ろにはピンクに近い紫の髪の少年が不安げに立っている。
「今回の会合の件はまさにその商業組合について」
ミラが椅子に座ると、レストランの従業員が間髪入れずに珈琲を出し、部屋を退出した。
「先日、彼が亡くなった」
メドゥーサが面白そうにへぇと声を上げる。アラクネに目を遣るが、アラクネは何も存じぬ、と言わんばかりに口元を扇子で隠す。
「酷い「事故」だったと聞きます。ねぇ?死神。」
「……悲惨だったねェ。「葉」をこっそり運んでいたのに、馬が「何故か」急に暴れだして、その馬に踏み潰されちゃうんだもの」
葉は麻薬の隠語である。
「彼の死後、遺族が遺品の整理をしていたら彼の遺言書が出てきまして、裁判所に遺書を見せたところ、これが「正式な遺書」であると認定されました」
「なぁに?隠し財産の在処かしら?」
「貴方は本当に浅ましい思考の持ち主ですのね。姉として恥しか感じませんわ」
「人に姿を晒せないような日陰者の姉を持った妹の辛さを考えてほしいものね」
盗賊組合と暗殺組合、このトップ同士が姉妹だとはまさか誰も思うまい。 死神は二人を宥めることはせず、ミラの手にある遺書を見る。 ミラもその視線に気付いて、一度開かれた封から真っ白な紙に書かれた手紙を取り出す。
前書きが色々と書かれている中で、要約するとこんな内容だった。
―――自分が万が一死んだ場合、商業組合の全権を自分の右腕のように働いていたミラに譲渡する。と。
裁判所で正式に認められた以上、ミラは商業組合の組合主、トップとなる。 死神が面白くないような顔をしている中で、メドゥーサとアラクネはにこやかに笑った。
「あら。それはおめでとう。貴方となら、良い取引ができそうだわ」
「就任祝いに1人、貴方専用の「影」を差し上げますわ、これからもよしなに」
二人はそれだけを告げて、席を立つ。 メドゥーサを追うように少年も小走りで部屋を出ていった。
死神も二人が退出してからようやく席を立つ。
「――組合を乗っ取る方法としては短慮すぎたな。」
「あら?彼は事故で亡くなったのよ。乗っ取る、だなんて。遺書だって亡くなる一年前に書かれたもの。私は彼の意志を継ぐ。それだけよ」
「「葉」については感謝する。組合が裏にいるとなると、手が出せなかったからな。しかし、葉よりも秩序を狂わせるようなことをしてみろ。お前を私が消す」
言い捨て、死神は部屋を立ち去った。 三人が消えた後、ミラは珈琲の入ったカップを持ち上げようとして、水面が細かく震えていることに気付いた。
カップを持ち上げようとしている自身の手が細かく震えている。
舌を打ち、ミラは結局珈琲を飲まず、レストランを後にした。
組合
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