ミラは俺のために一際広い部屋を与えた。白い大理石作りの部屋で、中央にはシルクで誂えた高級感溢れる天蓋付きの寝台が置いてあり、衣服を入れるクローゼットが三つ、壊したら何百万するのかも分からない装飾品がずらりと並んでいた。

試しにと、ミラに金額を聞いたところ、水を入れる瓶一つが六百万くらいと答えたところで、もういい。と聞くのを止めた。



部屋にはソファもあり、シルクを引っ張り出してはソファで丸まって眠るのが俺の日課になっていた。


ミラはそんな俺を見て寝台を片付けさせ、ただでさえ大きいソファを更に大きくしてしまった。


女主人に変われた奴隷は夜伽用と聞いていたが、ミラは絶対にそういう夜の行為はしない。眠れない俺のそばに近寄っては「大丈夫」「君を傷つける者はいないから」「安心して眠りなさい」「愛しの君」

と囁いて、優しく子守歌を歌う。


不思議と、ミラの歌を聞くと気持ちが落ち着き、悪夢も見ることはない深い深い眠りに沈む。


食事も不自由なく与えられた。
毒を恐れて、少しずつしか食べない俺だが、珍しく食べて味が気に入った果物があった時は、おいしいとも何も言っていないのに、次の日には籠いっぱいにその果実が屋敷の中に運び込まれていた。


「気に入ったのでしょう?顔に出てた」


ミラはそうにこやかに言う。


結局その果実は、二つ三つ食べて余した。
籠いっぱいの果実を腐らせるのはもったいないと、ミラは屋敷で働く少数の人間にやっていたが。



俺が聞いていた認識の奴隷の扱いをミラはしなかった。愛玩用と言えば近いのだろうが、猫っ可愛がりはしない。

食事は出された分きちんと食べきるまでは何が何でも席を立たせなかった。
奴隷だというのに読み書きができるようになれと勉強させた。



「何故?」俺は唐突に聞いた。


何故奴隷身分である俺に人間らしいことをさせようとするのか。

その度にミラは言う。



「人間を人間扱いして何が悪いの?」



人間。俺が?
悲しい哉、その言葉を理解するには、俺の頭は無知すぎた。



人間であれ、ミラが願う愛を、理解などできなかった。


人形遊び