「私<わたくし>は、貴女が嫌いですわ。元・無限の魔女、ベアトリーチェ」
精錬された無駄の無い動きでフォルトナは家具頭のロノウェの淹れた紅茶を一口だけ飲む。
パールブルーの色を基調としたドレスが静かに揺れて、彼女は向かいに座る無限の魔女と目を合わせずに指先で一つ、積み上げられたカラフルなマカロンの黄色を口に頬張った。
「赤が嫌いよ。赤は脳に強いインパクトを与えるもの。私は貴女が嫌い。赤いドレスの似合う貴女が、凄く嫌いだわ」
「なら妾が赤いドレスを着なきゃいいのか?」
「そういう問題ではないの。赤いもの全てが嫌い。つまり赤をイメージさせる貴女も嫌い。ただそれだけなのよ」
フォルトナは窓の外を見る。残虐な魔女による殺人ゲーム。それに挑む哀れな人間――赤い髪の、人間。
「??? 相変わらずお主が言うことはお師匠様に似て分からん」
「分かるようになったら貴女ではありませんよ。ベアトリーチェ」
くつくつと笑って、無限と対なす「夢幻」は立ち上がる。
「一つ教えてあげるなら、私は愚かな人間が好きということです。赤も青も関係なく、ね」
「人間が好き?」
「えぇ。とてもとても。愛しているなんて言葉じゃ足りないくらいに好きなの」
赤い人間は魔女に挑み続ける。
私もまた「むげん」の名を持つ魔女の一人。
いつか彼は私に辿り着くだろうか?赤い傲慢な魔女を殺し、青い嫉妬に駆られた魔女の所へ。
「………それまで、ベアトリーチェ。ごきげんよう。私は貴女の死を願うわ」
きっと来てくれる。
私は夢幻。夢を抱き、幻を魅せる魔女。いざとなったら私が彼に味方すればいい。いざとなったら私が彼を私の夢に囲ってしまえばいい。
「さぁ、うみねこのなく頃に優しい夢を見させてあげるわ。だから、私の元へ早く来て、早く、早く。」
早く来て。戦人さん。
君の死で私の愛を成す
第十の晩に、旅は終わり、黄金の郷に至るだろう。
あぁ、ようやく、貴方を捕まえた。