人は私を神と例えた。
天地を産み、神々を産み、人間を作り、そして世界を箱庭のように眺める女神だと。

人は私を天使と例えた。
神に仕え、悪を滅ぼし、善を守る、健全にして純粋な天使だと。

人は私を悪魔と例えた。
人を外道に落とし、子を攫う、不浄にして不潔な悪魔だと。

しかし、私はそのどれにも当てはまらず、その全てでもあった。


全ての始祖、真祖、神祖、元祖。
それが私である。


私が生まれた時、世界にはまだ生き物はいなかった。私が立ち上がった時、世界に恐竜というものが生まれた。私が「私」を認識した時、世界は氷に包まれた。

私が世界を認識した時、「彼ら」の祖が生まれた。私以外の、誰か。
私は彼らの祖に力を与えた。寿命を長く長くしてやり、怪我の治りも早く、他を吸収して生きる人間の祖に力を与えた。


彼らは地球の時間で百万年程度の繁栄を見せた。私は彼らが飢えないよう人間を産み、人間を餌にする吸血鬼を産み、その他沢山の種族を生み出した。


しかし彼らも一億年も経過すれば生き残っているのはたったの四人だけ。
補食される側だった吸血鬼や人間の数の方が多いとは、雑草精神というか、生命力の強いこと。


「まだ太陽が苦手か、愛し子」


最後に会ったのは何千年前だろうか、
闇色をそのまま髪に移したような、長く黒い髪にギリシアの彫刻のように引き締まった肉体を惜しげもなく月に晒す戦士の元に「神」が降りたった。


「……何用だ、貴様に構けている時間はないのだが?」


「まぁ、そう言ってくれるな。二千年以上も会っていないのだ、歓迎してくれてもよかろ」


「歓迎か、俺にはこのようなことしか出来んな」



男は、腕から白銀の刃を生やして素早く神の胸に差し込んだ。じわ、と赤い血が真っ白な衣服に染み込むが、神はにこりと嗤い、刃を片手で掴むと無理矢理胸から引き抜いた。


掴まれた刃は男がどのような力を入れても動かず、神は近くの岩に、男を投げつけた。岩が石に、砂へと一瞬で変貌し、吐き出した息もそこそこに、神は男の頬を撫でた。


「嗚呼、可愛い私の愛しい子、カーズ」



神を名乗る女の傷も、服もみるみるうちに治ってゆく。血も消えてゆくではないか。



「たった四人になろうとも、あの陽光の元に立つことを諦められぬ貴様らを私は本当に愛しいと思う」



足掻くのは良いことだ。
女は嗤いながら、指をこのカーズの腕に突き立てた。吸血鬼が人間にそうするように、しかし、女はぐり、とカーズの神経を掴み、爪で切り、力で治すをただ繰り返している。


「好きに暴れろ。子は跳ねっ返りぐらいが丁度良い」


不意に指をずるりと抜いた、投げられたら時に切ったのか、口の中に溜まった血を地面に吐き出すと、額に不意に冷たいが、柔らかい感触があった。女の顔が近くにある。


「カーズ、お前の生みの親は他にあれど、お前を教え、お前を導き、お前の育ての親は私だ。否定することなく、私だ」

「今さら親の顔か。ふらふらと俺を放置しておきながら」

「寂しいのか?お前が私の出す真実に至れば、いつでもお前は私の子から神の夫になれるぞ」

「あぁ、至るさ。貴様を、俺の妻にするために」


それはきっと歪んだ初恋。


「すべての生物の頂点に君臨してこそ、貴様の夫になれるのだ」






「初恋」


(嗚呼、それでは駄目だと何回言ってもお前は聞かないのだろう。
その恋ゆえに盲目、耄碌した耳では)






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