晶子ちゃんは私の憧れだった。
強くて可愛くて頭も良くて、中身も綺麗。私はその真逆で、可愛くもないし、頭も良くない。綺麗な晶子ちゃんを僻んでばかり。汚いなぁ、私、汚いよ。

私が看護士になった時、晶子ちゃんは私が心配だからと医者になった。
当てつけのように、医者になった。
私が居るべき場所を奪って、楽しいの?


その頃から私は晶子ちゃんと一緒にいるよりも勉強に勤しんだ。勉強している時は、晶子ちゃんを忘れられるから。


晶子ちゃんは医者として命の喪失という壁にぶつかった。助からない命があることを、本当に悲しんでいた。



「命が無くなれば、晶子ちゃんは悲しむのか。」



それを知ってから、私はわざと晶子ちゃんの患者を殺した。晶子ちゃんが贔屓にしてる患者の点滴パックの中にわざと薬物を入れたり、酸素マスクに穴を開けたり、気付かれないようにこっそりと殺してきた。

一年もすれば、流石に晶子ちゃんに気付かれて、私は病院の屋上に呼び出された。


「なンで殺した?」


晶子ちゃんの一言はそれだった。


「晶子ちゃんが悲しむのを見たかったの」


悪びれる様子も無く、隠す気もなく、私は笑いながらそう言った。怒った晶子ちゃんの顔が、無性に綺麗なものに見えて、嗤い転げたくなる気分になった。
可愛くて綺麗で、優しくて、頭の良い晶子ちゃん、貴方が思っているよりも世界は、人間は、私は、汚くて、醜いんだよ。



「そんな事で、あンたは、患者を殺したのかい?」


「そんな事?晶子ちゃん、それは価値観の相違だよ。晶子ちゃんにとってはそんな事かもしれないけど、私にとってはそんな事じゃあない。

晶子ちゃんに煮え湯を飲ますための手段だったんだもの。仕方ないよね。晶子ちゃんは私より頭が良くて可愛いだもん。他の人間は晶子ちゃんの味方、私はただの邪魔者。本当………」


晶子ちゃんが憎い、疎ましい、嫌い、妬ましい、晶子ちゃんが不幸になればいい。



「私なんか、綺麗な晶子ちゃんと知り合わなければ良かった」





好き。晶子ちゃん、大好き。
お姉ちゃんみたいな、優しい友達だもん。妬ましいけど、羨ましいだけだった。




「私は、知り合えて良かったと思うけどね」


妹みたいで、可愛かった。
晶子ちゃんはそう言って笑った。



「羨ましかったよ。だって、柚希は可愛いからねぇ。アタシみたいに男を拳で殴れない、可憐な天使みたいだった。
努力家で、愛嬌が良くて、器量が良くて………うん、とにかく可愛いと思ったねぇ。今だってそれは変わらない」


「ありがとう晶子ちゃん、私にはそれで十分よ」



私は落下防止用のフェンスをよじ登った。
すた、とフェンスの外側に立つと、晶子ちゃんが顔色を変える。



気付かれても気付かなくても、いつかはこうする気だった。殺してしまった人への、償いとして。
晶子ちゃんは私の名前を呼んで、今すぐ戻ってくるように訴えるが私の足は外へと向かう。


「晶子ちゃん」


「柚希!!」


晶子ちゃんがフェンスを登ろうと足を掛けた瞬間、私の体が宙に舞った。








「またね」






ごしゃり。
と鈍く落下する音がした。
フェンスから身を乗り出して下を見れば、地面を赤色に染め、体がひしゃげた嘗て人間だったものが落ちていた。








「死に体」







死は命の喪失だ。
死は悉く全てを奪い去る。
親友の命も、友情も。











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