闇市で七十億の懸賞金が懸けられた中島敦を狙って、武装探偵社がポートマフィアに襲われ、それを迎撃した際、国木田が露骨に嫌な顔をした。


「嗚呼、これは、来るな」


「来る?」


何が来るのだ?まさかまたマフィアかと身構える、と、乱暴に階段を駆け上がる音、既にポートマフィアの襲撃で吹き飛んだ扉に一度足を止めたが、大声で「彼女」は駆け込んで来た。



「国木田ぁあああああぁっっ!!!!巫山戯るなよお前ぇっ!!」


スーツ姿の、可愛らしい女性だった。
小柄な彼女は、硝子や床の破片が床に散らばっているのを気にした様子も無く、国木田に近寄ると、びしり、と指差した。



「私がひと月前に言った事を覚えてる?」


「……覚えている」


「復唱!」


「下階に迷惑かけない為にも物品は壊さない、硝子窓は割らない……窓から敵は捨てない」

「宜しい。硝子窓は仕方ない、物品も仕方ないとしましょう。貴方が壊したとは限りませんから、ええ。それはいいのですよ。
窓から何で敵捨てたんですか!?お陰で此方の客が怖がって逃げたじゃないですか!!」


金蔓が、お金が、と呟く彼女に国木田が溜め息を吐いた。



「悪徳金融業者め……」


「暴力団紛いな探偵社よりマシでしょう?」


一人訳が分からず目を白黒させている敦に、乱歩がそっと耳打ちした。



「彼女は柚希さん、探偵社の下の階にある金融会社の社長だよ」


「敦、間違ってもこの金融会社から借りたら駄目だよ?骨の髄まで絞り取られるからねぇ」


晶子がけらけらと笑いながら衣服の埃を払った。その間にも二人の会話が白熱してきている。


「詫びで済むなら軍警は要らないでしょう!自分が怪我したらどーするんですか!軍警使え!!」


「あんな奴ら如きに遅れなぞ取らん!!軍警は使えない奴らばかりだ!」


「くっ、そこは否定できない!!」


話の方向が変な方向に向かってきている気がする。声を掛けようか掛けまいか悩んでいると、いきなり柚希が背伸びをして国木田の頬を両手で挟んだ。



「次やったら、説教と詫びさせる程度じゃ済まないですからね」

「……肝に銘じておこう」

「仕方ないので、今回は許します。ただし、駅前の高級ケーキ屋のケーキを忘れないように」

「お前が来るとわかってしまったから、そのぐらいは予想の範囲内だ、各一個ずつ買ってきてやろう」

「珈琲でも用意して待っててあげる」



柚希が手を離し、全員に軽く会釈をして階段を駆け下りていく。妬けるねぇ。全くだ。晶子と乱歩が呆れたように呟いた。


「婚約者なんだからもう少し優しく言ったらどうだい?あれじゃ柚希もあンたの身を案じて気が気でないよ」


「俺と柚希の関係に口出しは無用だ」


「………婚約者?」


ああ、言い忘れた。乱歩が机にひらりと飛び乗って云う。



「柚希さんと国木田はね、婚約者同士なんだよ。しかも珍しい恋愛から発展した婚約者」


「え、えええぇっ!!?」




敦の驚きの声が階下にまで響いた。








「未来の花嫁」






敵なんて別に窓から棄てたっていいのよ。
国木田は強いものね。
でもね、私は国木田が心配なんだから、

だから心配させるようなことをしないでよ。


私に危険があったなんて知らせなくていいんだから。


ばーか。








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