「自殺マニュアル」という本を書いて出版してからというもの、色んな反響があった。自殺する奴が増えたらどうしてくれる。これは一般的かつ良識のある人間の言葉である。

実際、そんな言葉が罵詈雑言となり私に投げつけられたが、其れをも忘れさせるような手紙が、よく届いた。

最初は、本を発売した次の日に届いた。
白い便箋に達筆な文字で「素晴らしい本で感動した。是非試させて頂きたい」という内容だった。

試すとは、自殺を試す気か。
呆れとせめてもの良心で「良き死に成りますように願っております」と返事の手紙を返す。


返事が来たのは、更に三日後である。


「苦しい死に方ばかりでどうにも諦めてしまった。楽な死に方はないものか」


生きていたことに安堵した。
楽な死に方か、そういえば自殺マニュアルは苦しい死に方しか書いていなかった気がする。


また返事を書く。
「改めて見れば確かに苦しい死に方しか書いておりませんでした。新刊には楽な死に方も書くことにします。」


それからふた月、私は「完全自殺マニュアル」と云う題の書籍を出した。
また罵詈雑言はあったが、また発売した次の日、白い便箋に達筆な文字の手紙が来たのにはほとほと呆れ返った。


「これまた素晴らしい書籍でした。記載されていたドラム缶を使った自殺を試したのだが、苦しいばかりで死ねないので是非とも貴女の手で殺してはくれないだろうか」


真逆、此奴は私を殺人の犯人にでも仕立て上げる気なのか、返事をどうしようか悩んでいると、不意に玄関の呼び鈴が鳴り響いた。



配達だろうか、重い腰を上げ、玄関の硝子張りの扉を開くと玄関に一人の男が立っていた。


「……何方、でしょうか」


「漸く会うことが出来た!嗚呼、矢張り思っていた通り美しい方だ。可憐な姿はまるで地獄に咲く睡蓮のようではないか!!嗚呼、何て美しい……」


男はいきなり玄関に膝を着いたかと思うと、私の手を握り締め、綺羅綺羅した顔で一枚の便箋を取り出した。
白い便箋には、達筆に書かれた私の名。
唖と声を出すと男はふふふ、と笑う。



「私の名は太宰治だ。素晴らしい作品ばかりを作る麗しい作家さん」


「………貴方が、その手紙の差出人?」


差出人改め、太宰さんがにこにこと笑うと私の手に太めの麻縄を持たせた。


「………は?」

「君のような御麗人に殺されるなら男冥利に尽きるというものだ!其れとも心中がいいかね、ああそっちがいい!さぁ、一緒に心中しようではないか!」


立ち上がった太宰さんはずるずると私を引きずって歩き出す。
まずい。之はとんでもなく身の危険を感じる。、


「いや別に私自殺マニュアル執筆しましたけど死にたがりとかそんなんじゃなくて、というより見た目に反して力強いですね貴方!っ……ど、せぇえいいぃっ!!」



太宰さんの躰が、私の背を経由して地面に落下した。
所謂、背負い投げである。
地面の真ん中で大の字で目を真ん丸くして倒れる太宰さん。


「太宰さん、お願いします、お願いしますから……」」



死にたいと思う人間に死なないでと言っても無駄なことだろう。



「私また本書きますから、太宰さんのお手紙をまた下さい!!」



唯一私を批判しなかった貴方の手紙が欲しいんです。そう訴えれば「うん、いいよ」と今まで死にたがっていたのが嘘であるように立ち上がり、埃を払って返事をした。



「君が私と一緒に死んでも良いと云うまで、私は君に情熱的な愛の手紙を贈り続けよう」








「御手紙」







※やはり上手く見れない方いたようなのでタイトル修正いたしました。




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