※破壊神夢主で阿修羅さん封印後の話
釘バットで他人の頭を思いきり殴ると、女の細腕でもまず頭部が陥没する。釘が頭に刺さる。それを繰り返すと、骨が砕けて、脳が飛び散って、酷い惨劇しか残らない。
例えて言うなら、虫を靴で踏んでしまった時みたいなものだ。
変な体液をぶちまけながら、元の形がなんだったのかも分からないくらいぺしゃんこな虫と、死に様が似ている。
ぐちゃぐちゃで、元の形が分からないくらいに木っ端微塵。
悪い時は、殴った時に残った目玉が床に転がっていることもある。
だから、壊す。
家主が形もなくなったのに家具が残ったらいけないし、誰かが有から無になったのに、有が増え続けることは我慢ならない。だからついでで、何かを壊す。
「(私が有で、阿修羅が無……。ちょっと前は阿修羅が有で、ヴァジュラが無)」
じゃあ次は私か。と自嘲気味に笑って、破壊の限りを尽くした教会を出た。たった一人の魔女のために、教会の椅子、十字架、ステンドグラス、柱、文化価値のありそうなものを全て壊した。おかげでこの教会は廃業決定だろう。
「……足りない」
1に対して9を破壊したのに、まだ満たされない。何かが足りない。
「……こんなこと、今まで無かったんだけどなぁー」
返り血のすごい顔を服の袖で拭き、町を徘徊する。黒い軍服には赤色は目立たず、好んで着ていた。
本当なら死神様に報告しなきゃいけないのだが、このまま死神様に会ったら、死神様を破壊しかねない。
「あぁ、もう……何が足りないのか。分かんない」
ぶん、と釘バットを大きく振ると、もう使用されていない電柱が、みしりと軋んだ。
「あ。またやっちゃった」
折れなかっただけ幸運か。
折ったらまた減給だ。
空っぽの心は渇望する。
何が足りない?
何が満たされない?
何が、誰が?足りない?
「……」
歩を止めた。
誰が足りないか。そんなの、分かりきっているじゃない。
「女々しいなぁ。私、こんなに乙女的思考の持ち主だっけ?」
ふと、幼なじみの姿が浮かんだ。
ビビりで、怖がりで、人一倍心配性で、それ故に狂気の道に走った幼なじみで恋人だった人。
また、釘バットをぶん!と振る。使用されているのか分からない自販機に勢いよく釘バットが沈み、ちかちかと点滅していた電気が完全にショートした。
めり込んだ釘バットを引き抜くと、今まで足りなかった破壊衝動が収まっているのに気が付く。
この過激な破壊衝動の原因が誰か分かって、すっきりしたせいだろうか?
「阿修羅のくせに、私を待たせるなんていい覚悟にも程があるじゃない。
私が老いて、死ぬまで封印されてたら祟ってやるんだから。それとも、私が彼を叩き起こした方がいいのかな」
軽くなった足をようやく死神様の家の方へ向け、私は歩き出した。
誰もいなくなった路地裏にて、ショートした自販機がか細く「当たり」の文字を出し、誰も飲まないコーラが出されて、自販機は無機質な物体へと成り果てた。
直訳しますと
「待ちわびる」
君が帰ってくるのを待ってるから。
君を狙う誰かも、魔女も破壊して、君が安心できる場所を増やしておくから。
ずっと、君を待ってるよ。
阿修羅。早く帰ってきてね。