俗に母親と呼ばれる女の腹にいた時から俺とアイツは二つで一つだった。魂と肉体とが二つに分かれて、けれども離したくないと、へその緒を首に巻き付け、俺とアイツは腹の中で死のうとした。
医者が俺たちを無理矢理生かしてしまって、双子として生を得たその日から、俺はアイツでアイツは俺。片時も離れることはない。
死ぬ時は一緒。約束。
二十年程して、そんなアイツがある古い本を持ってきた。紐綴りの古い本。
俺と似た、血色の悪い肌が珍しく高揚して紅に染まっていて、何があったのかは理解できなかったが、ただ俺を差し置いて何か嬉しいことがあったのは理解できて、それが妙に苛ついた。
「阿修羅、阿修羅。見て。見てよ。これ、あの女の実家の荷物から出てきた本。」
あの女。俺たちの中ではそれは母親のことを指す。白かったのだろう本は陽に焼けて黄色くなっている。手渡された本を開くと、中はそんなに焼けておらず、読みやすかった。
「……紅贄祭?」
「双子で執り行われる儀式で、妹か弟が姉か兄を殺す儀式なんだって!首を絞めて、二つに分かれた魂を一つに戻してあげるの。殺された側は紅い蝶になって、ずっと殺した側と一緒にいれる。阿修羅。一緒になろ?私、阿修羅に殺されてあげる。私が姉だから。ねぇ、早く絞めて、蝶にして」
二つに分かれた魂を一つに。
流石双子と言うか、珍しく俺の気持ちも高揚した。
「一つに、なる」
「そう。こうやって、手を首に当てて。あ。絞めにくいか。ならベッドに横になるね」
二人で一つのベッドにアイツが横になり、俺の手を取って、自分の首に導いた。
「一つになったら、阿修羅の傍にずっと一緒にいられるね」
「あぁ。ずっと一緒だ」
手に力を込めた。暖かい。低い体温だったはずなのに喉はこんなにも暖かいじゃないか。
喉は別な生き物のように蠢いて、ひゅうひゅうと鳴り損ないの笛のように息が漏れた。
絞めて絞めて絞めて絞めて絞めて絞めて絞めて絞めて絞めて絞めて絞めて絞めて絞めて絞めて絞めて、絞めて、
喉の蠢きが消えて、いぶかしんで手を離すと、首にはっきり残った紅い絞殺跡が蝶のようにふわん、と浮かんだ。
「紅い、蝶……」
蝶は俺の唇に止まると、霞に消えるように蝶は消えた。
残ったのは、ベッドに横たわる、双子の姉の死体。
「あ…………」
もう笑わない。もう話せない。
魂が一つになる犠牲に、肉体は離れて、しまった。
「あっ、うぁっ……っ、柚希っ、柚希っっ!あ、うあぁあああぁぁぁっっ!?!!?」
殺してしまった。
殺してしまってから、後悔する。
嫌だ、嫌だ。嫌だ!!
離れたくない、魂が一つになっても見えなかったら意味がない。一緒に、いようと誓ったのに。
死体を、抱き締めて、俺は半狂乱で泣き出した。
紅い蝶
紅い蝶は静かに半狂乱で泣き叫ぶ阿修羅の肩に止まって、微かに笑った。
ずっと、一緒だよね。
約束だよね。
これで私と貴方は一つで二つ。