ぎし。ぎしっ、と軋むベッドのように首が軋んだ。細くて無骨で、大好きなこの手から生み出される握力は私の呼吸をする気管支を圧迫して、ひゅうひゅう、鳴り損ないの笛みたいな音を出す。



「愛してる」



私に馬乗りになって、赤い目を細くして、恍惚の笑みを浮かべて、阿修羅は手の力をほんの少し緩めた。



「愛してるんだ。柚希。どうしようもなく、お前が好きだ」



呼吸を吸って、吐いて、吸って、と三回繰り返すと阿修羅はまた首を絞める手に力を入れる。


「が、あ、あ゛っ……!?」


「大丈夫。殺しはしない。お前の全てに俺が残ってくれれば、それでいい」




体に、魂に、心に、俺を残し、俺が死んでも傷や記憶が俺を思い出すように。

願いにも似た狂気が真綿で首を絞めるように私の首を絞める。



「柚希、手を」



また手が緩められる。私は妙に忠実に、言われるがまま阿修羅に手を差し出す。その従順さが阿修羅のお気に召したのか、阿修羅は私の手にキスをした。

冷たい唇だった。元々、阿修羅は体温が高い方じゃなかったから。冬は私の方が体温が高くて、よく私から手を絡ませて「寒いね」と笑っていたもの。



「愛してる」



阿修羅の白いマフラーが、阿修羅の手に取られた私の手の平をすぱっと切り付け、赤い血を落とした。

阿修羅も同じように手の平を傷付ける。


流れ落ちるのは黒い墨のような血。


首から阿修羅の手が離され、黒い血と赤い血の流れる傷口同士を重ね合わせる。



「あしゅら」



酸素の足りない頭では阿修羅の行為の意味すら理解できず、ただ成すがまま。指を絡めて、手を繋いで、阿修羅は私の上にのし掛かって、愛してる、愛してると呪詛のように「愛してる」を繰り返した。



「あい、してる」





阿修羅は私の言葉に、満足そうに笑った。その笑顔は、鬼神の笑顔。狂気めいてて、とても綺麗で私もつられて笑った。







「俺も、愛している」






体を巡る黒い血が 赤い血を侵食して





私の意識は 阿修羅に堕ちた














千夜の調教話









私が彼に「愛してる」と呟いた日は、偶然にも彼と出会った日から千日経った夜でした








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