隣の家で小火騒ぎがあった。不運にも私の家の物置も燃えてしまい、お父さんが隠していたエロ本も全焼。項垂れているお父さんを無視して、消防士の中で一際背の高い男性が私に近付いて


「大丈夫か?火傷とかしてないか?」


って聞いてきたの。彼の顔を見た瞬間に湯沸かし器みたいに私の顔が熱くなって、この人すごくかっこいいって思っちゃったの。



『因幡っち!!背の高い消防士で白髪・イケメンな彼のこと調べてっ!!依頼報酬は私の髪を三日間シャンプーでどう!?場合によったら一週間でもいいわよ!?』


「白髪の背の高い消防士?あぁ、そりゃ「大矢太郎」だな」


『答えるのが早すぎる!!もうちょっと焦らすとかないわけ!?焦らされればムードとか出るのにっ!!』


「なんだ柚希、白オギに用か?なら連絡付けてやるよ」


『因幡さん大好き本気で愛してる!!どうしよう、ここで感謝の心を示すために髪切ったらいいかな!?』


「…………柚希ちゃん落ち着いて」


圭くんの制止の声も耳に入らず、その日は遠足をわくわくしながら待つ子供みたいに眠れなかったものです。


次の日にメールの返事の結果を聞きに、因幡探偵事務所と書かれたドアを勢い良く開くと、優太くんにニコニコされながら目隠しをされ、事務所のソファに座らせられる。


「良いって言ったら目隠し解いてね。…………いいよー!」


ばたん。

言い終わるか終わらないかに優太くんがドアを閉めた。何?結果悪かったの?消防士だもんね、忙しいからなぁ………。もしかして彼女さんとかいたのかな?

不安になりつつ目隠しを解くと、テーブルの上には私の分のココアと………もう一つ。私の向かいにある、コーヒー。


ゆっくりと顔を上げると、強面の白髪の男性が一人……………。



『ふ、にゃああああぁあぁぁっっ!?!?』


悲鳴。絶叫。そんな声を上げつつ、ソファから転げ落ちて床に転んだ。

『(お、大矢太郎さんだぁぁ!!ここ、こころのっ!心の準備してないのに!)』


「……お前が柚希?……あれ?どっかで………」


『は、はい!私が柚希です!!せ、先日の小火騒ぎではお世話になりましたっ!!』


「あー……あの事件の時の」


『はい!あ、あの……そのっ、大矢太郎、さんですよね?』


「ん。大矢とかでいい」


『大矢、………さん』



恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!絶対今顔赤くなってるってどうしたらいいの。なんで因幡っちたちいないのなんでなんでなんで!!


『………あ、あぁあ、あの!』


「ん?どうした?」


『わた、私っ、私と………付き合って下さい!!


「はぁ!?」


『あぁぁあ!?ちがっ、違うんです!付き合ってってそういう意味じゃなくて……いつかはそういう意味になりたいなーって思ってて……!!あ、あたしもう何言ってるんですかぁっ!!滅べ!私なんか存在一欠片も残さず滅べ!』


「落ち着け。」


大矢さんが私を制止した。


「………ちょっと立ってみろ」


『?……は、はいぃ……』


言われるがままに床から立ち上がる。


「…………」


『大矢さん?』


「(やっぱこいつ、どう見たって身長150センチくらいしかねぇせいかなんか一々やること可愛すぎる。
くそっ、あの事件の時に電話番号でも聞いとけば良かった!)」


『あの……大矢さん!』


「なんだ?」


『め、メールアドっ、レス、お、教えて貰ってもっ……いいですか?今度、きちんと改めてお礼、したいので………』


「…………」


『だめ、ですよね分かってましたぁ!』


「い、いやっ……メアドだけじゃなくて、電話番号も、いいか?」


『………は、ははははい!』



急いで携帯を取り出して赤外線通信でメアドと電話番号を交換する。アドレス帳に「大矢太郎」という名前が増えたことが嬉しくて、思わず顔を綻ばせた。


「お前……あと、さっき付き合ってっつったよな?」


『……忘れてください』


「良いから聞け」


大矢さんの大きい手が私の手を掴んだ。


「俺と、付き合って下さい」



言葉の衝撃に、すとん、と腰が抜けて、その場にへたりこんだ。




返事は勿論YESです



柚希の苗字が大矢に変わったのは、それから一年後のことでした。




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