13'0817(Sat)00:45_0
文ストが好きすぎるもので


※故あって主人公の名前は和泉ちゃんです。



かろろん、雪駄が鳴る。
その音に思わず体を震わせたのは中島敦で、音を理解した瞬間、探偵事務所の扉が吹き飛んだ。

何だ何だと事務員が入口を覗く中、蛇腹の開く音、かろろんと雪駄が鳴り、部屋に一人の女が入ってくる。


「さても愉快。吾(わたし)の手を離れられるかとお思いか、吾の可愛い敦」


「……和泉!?」


鏡花のような和服に扇子、雪駄の似合う可愛らしい女性に思わず太宰の心中センサーが反応するも、和泉は太宰を無視して、敦の手を取った。


「いい、ぃ、いずみ、な、何で此処に!?」


「吾が敦の居場所を捜せぬわけあるまい?吾の愛しい敦。孤児院の阿呆共には吾は敦と生きると飛び出してきた」


共に生きよう、と熱烈な愛の告白に太宰が割って入る。


「そこなる可憐なお嬢さん、私と一緒に心中していただけないでしょうか」


「寝言は寝て言え、吾には敦がいる。一人で死ぬるか別な心中相手を見つけよ」



ぐぎり、と耳障りな音を立てて、太宰の指が変な方向に拉げた。


「……というか、貴様誰だ」


国木田の一言に「和泉」が辺りをようやく見渡した。
敦がええと、と口籠りながら説明をする。


「彼女は「和泉」。僕と同じ孤児院の孤児で…」


「敦の妻だ。」


「なに!?敦くんそれは真か!?女のなんたるかを知らなそうな君の奥方がこんな蓮の華のような可憐な女性だと!?」


「太宰さん信じないで!!!」


「嗚呼、その内妻になる予定だものな、逸った」


「それも違う!!大体、和泉は引き取られたでしょ!?」


「出てきた」


「は?」



話によると、敦が孤児院を追い出される前に和泉は里親が見つかって、その家に引き取られたのだという。



「この吾を死んだ娘子の影武者に仕立てあげようとしたのだ。
この至高にして精錬された吾をだ。何ゆえ吾より劣る娘子の真似などせねばならない。
よって、吾は吾が唯一吾と同等と認めた敦と生きることにした」


絶対的な自信家。
敦と真逆な存在の登場に国木田が頭を抱える。


「それで、貴様は敦をどうする気だ?」


「誰も知らぬ田舎の村にて二人暮らしに連れ出そうとしたのだが…、敦は随分と此処が心地良いと見える。妻が夫のすることに口出しするは無粋というもの。
よって」



和泉がぱしんと扇子を国木田に突き付けた。



「吾もこの探偵社に入れよ。
なに、自分の食い扶持ぐらい自分で稼ごう。
吾が敦を守る、吾が敦のために働く、吾はこう見えて「異能」の者、そこいらの雑魚には劣らぬよ」



くつくつと和泉が笑う。
太宰が「さーんせー!」と手をあげる。
また問題が、また予定がと呟く国木田を後目に和泉が僕を見て、にこり、と笑みを一つ。



「敦、案ずることは無い。吾は強い、吾は主のためなら死ぬことも厭わぬ。吾は主を裏切らぬ、故に、吾の恋を、叶えておくれ」






和泉の由来は和泉式部。
恋に身を窶すが、その恋は実らないことで有名な作家である。


















和泉式部さんは恋多き方。しかしどの恋も周りから反対されたり、相手が死んだりして叶わなかったそうです。

かつ自信家。清少納言も自信家だったらしいですが、いずみ。という読み方が好きだったので此方を採用。

ちなみに清少納言の自信家ぷりは紫式部に「あいつあれじゃ絶対痛い目見るよ」と言わせたほどらしい。

そして本当に痛い目に合っている。
文スト面白いです(o^∀^o)




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