年末の郷益


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時季外れですみませんひたすらいちゃいちゃしてます




紅白を観ていたのに同居人に餓鬼つかにチャンネルを変えられた。
あんなチイチイパッパ見て何が面白いんだよと例のざらりとした声で言われると益田は、なんだか抗う気を無くしてしまう。
だがかく言う郷嶋だって画面の向こうの芸人の馬鹿騒ぎをさして面白くもなさそうに見ながら缶ビールをあおっているだけなのだ。別に文句を言う気もないけれど。
ストーブがついてるのはリビングだけで、わざわざ寒い部屋に移る気にもなれなかったので益田はずっとリビングにいて、結局は一緒にゆく年くる年まで見きってしまった。
コマーシャルになったテレビ画面を前に益田は蜜柑の皮を剥く。益田は酒に弱い。郷嶋の放つ酒の匂いだけで充分なほどだ。
年が明ける。
――希望に満ちていることの筈なのに、何となく物悲しい気持ちになってしまうのはなぜなんだろう。
考えているとふいと横から郷嶋の浅黒い腕が伸びてきて、蜜柑の一房をさらっていった。
益田はその動きを目で追う。あ、と言う間もなく顎を捕まれて、気がつくと酒のあじの舌で口を奪われていた。
口の中が苦い。
酒の匂い、に、ざらつく髭に。
益田とはあまり馴染みのないそれらをもつ郷嶋は時々、別世界の生き物のように感じられる。
郷嶋は唇を離すと、蜜柑の味がするなと言って、顔をぐしゃっとしかめたように笑った。(か、かっこいい…)
続けて独りでリュウイチ君は蜜柑の味がするんですねえだの言っている。酔っ払っている。
おこさまですねえ可愛いですねえげらげらげら。
でかい白いソファに郷嶋は深々と腰掛けている。脚を大きく開き、正面の大型液晶テレビと、その前の床に座っている益田を見ている。口元がだらしなく緩んでいた。「益田ちゃん」腕を広げて呼ばれた。「おーいで」
郷嶋は御満悦である。なおも無視していると抱き着いてきた。「ちょ、郷嶋さん、あんたくさい、酒くさい」「いいからいいから」首筋を嘗められる。酔っ払った指がそれでも服を脱がしにかかっていた。益田は身をもがいて抵抗する。
「やですよ、こんな」
横目で見ると十歳以上歳の離れた彼はえろ親父の表情をしている。耳元で囁かれる。
「ひめはじめしましょ、益田くん」
――ときめいてしまう自分はどうかしている。



餅がトースターの中でぶくぶくと膨れるのを見ていた。飽きない。郷嶋はなますを作っている。益田は黒豆を皿にだしていた。テレビが初笑いと言ってコントをやっている。笑い声がやかましい。郷嶋はなますが好きで益田は黒豆が好きだ。だからそれだけは出す。あとは普通の食事である。味噌汁にご飯に焼き魚。卵に納豆。

お互いテーブルの対面に座って、いただきますと言って食べはじめた。
携帯のランプが光り、友人からのあけおめメールの到来を知らせている。午後には郷嶋宛ての年賀状が届くだろう。食べながらぽつぽつとどうでもいいような会話をする。
「初詣で行く?」「寒くないですか」「そりゃ冬だからな」「どうします?」「行くなら歩きだな」「いやあいいですよ祈ることも無いす」面倒くさい。「巫女さん見に行くか」「目的不純ですね」「中禅寺のところとかだったら空いてるだろう」「え」「あ、お前知らないか。中野の」「あ、いや――」
何だかとんでもない人が出てきた。
「以前、捜査協力して頂いたことが――そのう、中野の…古書店の?」
「ああそうそう」
意外な共通の知り合いである。
「憑き物落とし、の」
「うん。ああでもあいつんとこは巫女さんいねえな。ああでも妹が別嬪とか聞いたな。それでもまあ巫女はないか。ううん」
一人で言ってのけ反っている。「……郷嶋さんは何と言うかはっきりエロいですよね」「冗談だよ。でどうする」本当か。
「あ、帰りにツタヤ寄るなら行っても」「ああいいなそれ。そうすっか」
そうして笑う。
今日は彼の機嫌が良い。



120318

暮れにアップしようとしてできなかったやつです
なんだか勿体なかったのでお目見え
改めて考えても特に落ちを思いつけなかった…

郷益大好きです!!!





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