榎益
映画のワンシーンの様だ。
榎木津に甘やかされるのはあまやかで優美なことだ。世界は潤み、けぶり、散る。全てが薄い膜で覆われて、気づかないうちに場所はふたりだけのくにになる。からだがハチミツになって溶けていく。そう思う。触れられた場所から体温が爆ぜていく、ぼくはあなただけの物になる。 「ばかおろか」 声が甘い。鼓膜を痺れさせる。華奢でたくましい手がゆるりと益田の腰を抱き寄せなぞる。耳元で囁きながら、チェシャ猫かなにかにするように、きれいな指で、ソファの上に寝そべった榎木津が、四つ足になって彼に乗った益田をなでる。長い脚はソファにおさまりきらずぞんざいに組まれ投げ出されている。目つきが甘い、視線を浴びるだけでとろけてしまいそうだ。榎木津は唐突だ。いきなり冷たくされたり罵られたり、優しくされたり怒られたりする。大部分のことはへらへら笑ってやり過ごせるからべつに益田はいいのだが。気にしない。この人にはきちんとこの人なりの理があり、そしてそれを益田が解ることなど無い。 ただこの容貌の良さはどうにも困る。見とれる。慣れない、間近で見つめられると思考自体がどこかへ飛ぶ。ぼくは今どんな顔をしているのだろう。ゆびで唇を割られながら益田は思う。きっとひどくはずかしい顔をしている。だってうっとりしている、したたかにこの空気に酔っている。ふふ、榎木津が微かに空気を震わせて笑った。益田は彼のゆびを吸う。 「ひどい顔だ」甘い声で嘲られてどう反応すればいいのかわからない。 あまいあまい海の底、砂糖壺のなか。暖かくて気持ちがよい。彼の掌。
20111229 最近更新してないので いつ書いたか覚えていないこれを…いひひ
みなさん良いお年をね!来てくれて嬉しいす |