冬の朝


T榎京

榎木津はふいと視線を反らして明後日の方を見始めた。いまさら彼のことを批難する気もないけれど、朝の布団のなかで包まって起きたしょっぱなの行動にしては、幾分甘さに欠けるようだ。
浴衣の裾を合わせて、煙草を取りながら尋ねた。
「どうしたい、榎さん」
「別に如何でもいいことさ」
起きぬけの眠たげな表情を作り直して、榎木津は再び布団に包まった。
「今日は寒いな。おい、京極」
「なんです」
「足冷たい」
「ちょっと、やめてください」
外の寒い空気と隔てられた布団の中にだけ篭る熱。共有する温度。うふふと榎木津は歳に似合わない笑い声を漏らして、中禅寺を抱きしめた。
「おまえは体温が低いな」
「榎さん」
白い脚が絡められて、冷えた中禅寺の脚が彼の体温を拾う。よく推敲された文体のような(つまりは無駄がなく洗練されているということ)身体がきゅうと中禅寺の痩せた体を包んだ。薔薇が栗色の髪の毛のあいだから匂う。こんな匂いを纏う人間は彼しか知らない。煌めく双眸が中禅寺を見据える。優しい目。
彼の考えていることも感じていることも中禅寺には解らない。彼にとって解らないということは魅力的なことである。
謎とは解く前が一番美しい。榎木津は、中禅寺からは完全に独立して成立している式である。
「おはよう、榎さん」
「おはよう、京極」

冬、冬は恋人たちの季節である。


U(鳥青)


「いやあ今日は寒いですな。氷柱がほら、ここからでも窓の外に見えますよ」
「うん」(ねむいなあ)
「いや僕はやっぱり小学校のときああいう氷柱をね、取って好きな子の背中にくっつけたりとかね、してたんですよ」
「うん」(ねむい)
「あとはね、雪合戦やかまくらなんか。定番なんでしょうけどねしましたよ。橇なんかも面白かったな」
「うん――…」
「いやあやっぱり銀白の世界っていうんですかね。箱根行ったときもそうですけど、あの清涼さは僕みたいな人間にはちょっときつくもありますな――あれ青木さん?
…寝てます?昨日夜勤だったんですか?」
「………」
ああ青木さん寝顔かわいいなあ


ちゅ


「起きました?」
「…鳥口君は王子様じゃないので起きません…」
「えええええっ!?ああもう寝ぼけちゃってかわいいなあ!」
「…それ本気?」
「勿論ですとも!さあ起きてください、今日は札幌雪祭りに行くんですから!」
「………」
「寝ないでくださああい!」
(ああもううるさい!)
(がばっ)
「ああもう!雉も鳴かずば撃たれまいって諺知らないの?鳥口くんは今日は喋るの禁止!」
「えっまじっすか?じゃあ言葉を使わないこといっぱいできますね!」
「は?」
「警察官が嘘をついてはいけませんよね、青木さん!」


(布団のなかで手鳥足鳥教えましょ?)




――

中継ぎシリーズ

111009//




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