恋愛


蒲団の中に二人きりで潜り込む。あとは音楽。どちらも風呂にはもう入っていて、微かに石鹸の匂いがしている。
在るのは贅沢な静けさと疲れてはいない心と体。じわじわと共感の準備が始まっていく。
心を揺さぶるのは弦楽器の惑溺させられてしまう音色。幾度か聴いた覚えがあるその曲が、頭の中の型をなぞるように、けれど記憶よりも確かに魅惑的に奏でられている。
この時間のなんと豊潤なこと。電灯の光を遮る。二人の為だけの暗闇。贅沢な試み。体が触れる。脚を絡めた。
音楽が押し寄せて来る。
僕たちのためだけの音楽。二人の間にあるのは幸福というには曲がりくねっていて、情と呼ぶには深すぎるもの。
構成する世界を作り替える。こんなにもたやすく出来てしまう。
彼の髪からは微かなライムの匂いがして鼻孔をつつむ。タオルケットのやわらかな感触が二人を包(くる)んでいた。

「すきです」
(本当は、言葉なんていらないけれど)
(伝えなきゃしょうもないから)

Celloとviolinとpianoが、どうしようもなく心を打つ。やわらかに体を触れ合わせた。

永続するべくもないと判るほどに満ち足りていた。
ふたりだけの暗闇と蒲団と音楽。

(あいしあうには実際のところそれだけでいい)

(ずっと続かなくていい、今だけでもう、一生分である気がしている)





~20110810

いちおうとりますイメージですが何でもいいです




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