進化論の必要


雑踏の中見覚えのある姿をみつけた。無視しようかどうか迷ったが、後でこれも書かれるのだろうとおもうと、いっそぶちまけたほうが良いと青木は判断した。

男はいつもと同じだった。いや、少し窶れたかもしれない。喫茶店で向かい合わせに座っても彼は、鞭を振るいながら、饒舌に喋りたてた。
「あおきさんとこうして話すなあ久しぶりですね、相変わらず僕を見ると厭そうな顔しますね、別にいいんですけど。お仕事は順調みたいじゃないですか、新聞に載ってましたよ――」
「あの」
益田は怪訝そうな顔で青木を見上げた。
「やめてもらえません、ごみとか漁るの」
「え?」
止まらなかった。
「それだけじゃなくて、あの、あなた合鍵作って僕の留守中部屋に入ってるでしょ、それで掃除だの洗濯だの」
青ざめる青木に益田は軽薄に笑んだ。
「嬉しいと思ったんですけど」
「不法侵入です、あとファックスも、やめてください、いちいち僕がどこで何をしただの―伊豆の事件じゃあるまいし、どうやって調べてるんですか、しかも毎夜送ってきて、」
益田はやたら長い髪を指で弄りながら、
「恋人ですから」
と言った。理由になっていない。
男は青木を見て目を猫のように細めて続けた。
「あなたのことが好きだから、やってるんですけど」
「着信履歴一日に二十件以上残すのもやめてもらえませんか」
「青木さんがでないから」
わるいんです。
悪びれる様子もみせず彼は言う。
「やめてもらえませんか、みんな」
謡うように益田は返した。
「イヤです」
「あのね」
「だって青木さんだから」
柔らかい笑みをみせて笑う。甘えるような声を出す。顎を両手で支えて青木をみる。
「あおきさんだからします。犯罪行為だって分かってるけど、僕、あおきさんのことだい好きなんです」
「益田くん、」
「今日も」
うれしかったです。頬を微かに染めて続ける。
「青木さんが――誘ってくれて。たまたまでしたけど―デート、でいいんですよね、すごく今僕うれしいんですよ?」
かわいいものすごくかわいい叫ぶ脳を青木は無理矢理シカトする。だが反論の根拠が崩れかかっている。
どうしてごみ漁ったり深夜二時にファックス送ったりするのだめなんだっけ。恋人が、留守の間に部屋入って掃除洗濯するのの何がおかしいんだっけ。答えが弾き出されてこない。
「あのね、益田くん」
「はい、なんでしょう」
妙に脳が麻痺していた。
「それでもね、やっぱり」
益田は背もたれによりかかって何秒か思案した。
「――まあ、ふむ、でもわからないこともないですよ、青木さんのいうこと」
「本当かい」
「そうですね――」
益田はやっぱりちょっと怖いかもしれないですよね、と言って頬笑む。
さみしいですけど――無理にわらおうとするいじらしさが愛おしくてならない。
「着信履歴は一日最高十回にしますね」

それでいいですかと聞くので、それでいいよと言うと益田は、音を立てて青木の唇に吸い付いて、あおきさんはあまいなあ、と言って笑った。





20110801//ヤンデレがすきですという主張




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