にっきろぐ


非道く傲慢な言い様だった。そんなことぐらいもう慣れていたと思うのに突き付けられた言葉は心に傷を残して消えない。そんなことだから常日頃軽薄の仮面で押し隠していたのにこれでは全くの無意味だった。意味の、無い。
益田は喉のおくで低く自分を笑った。笑って呪って罵った。吐き気みたいなものがせりあがり益田をえずかせた。だから彼をやはり――好きになるべきではなかったのだ。それは追い詰められるばかりの恋だよ。

君の年頃は勘違いしやすいものだ。しかもあいつは見てくれもいいから―そうだね、誘われもするだろうさ。低く艶のある声が言う。
心の奥に隠していたものがずるずると融解してほどけていった。撒き散らされてほどけきる。随分長い間繋いでいたものが離れたような気がしていた。古書肆は何でも知っているとでも言いたげなポオズを崩さない。まるで聖人然としている。彼はだからこそそれを自分で打ち壊す。一介の男であり人間に過ぎない―と。いっそ超人染みた力を男は言葉を操るという点において有していたからこそその必要性は証明されていた。
君は進んで道化を演じるという悪癖があるからな。だから余計軽んぜられるのだろう。
だが彼はそれに安心して包まってもいる。自分に価値があると認められることを、屈折した青年はどこかで恐れてもいた。そこはすっかり青年のこころの中の事象で中禅寺があれこれ言えるような場所にはなかった。ただそれが逆さ睫のように己を突き刺すのだと青年が泣くのだとしたら。ほろほろと繋ぎ止めた糸が繊維を散らしてほころびていくのがわかる。それを砕くことばかりしか無骨な指では出来ない気がした。妙に時間が停滞していた。

言葉にすればいい。何の解決にもならずとも形をつくる過程を経るだけで人は何故だか癒されるのだ。満足のいくほどに傷や悲しみを表現出来たと思うとき、そこから痛みは抜け落ちている。不思議なことだと思う。(あ、禁句)



110722




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