言ってしまえば、友情やよすがというような、決まりきったきずなは、僕たちの間に存在しなかった。
彼の、知人、という言葉が表するように、私と彼の間の距離は、ときにひどく遠ざかり、ふと近づいたりを繰り返していた。
元々対人恐怖症で、鬱のわたしはもとより、彼もその性質上、人と熱心に関わるような行為を不得手としていた。大体にして会話すら本越しに行われるのである。ときにはこんなに面倒をかけるやつを友人になんてしたくない、とか、いやしかしそうはいってもそれはまがりなりにも僕の顔見知りなのだから勘弁してやってくれよ、というように、様々な場面で彼は私を突き放し、けなした。
けれど、ついぞ彼は、君なんて知らない、とは言わなかった。そのことに私が甘えていたことを否定はしない。もしかしたら今も、その甘えは続いているのかもしれない。



閻魔も裸足で駆け出すほどの悪相も、二三十年来の付き合いともなれば、馴染み深くもなるというものだ。少なくとも京極堂の表情の僅かな機微ならば、大抵の場合察せられるという、特に有り難くもない自負が関口巽にはある。
眉間。眉間のしわ。鼻。眇られた目。瞼。口。顎。見慣れた男の顔に関口は視線をさ迷わせる。この枯木のような男が、この何の変哲もないひとつの口で、私を幾度も彼岸から連れ戻しているのである。そう思うと何か、俄かには信じがたいような心持ちになる。
視線に気づいて中禅寺が顔を上げた。
「なんだい関口君」きみは




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