終わり、


※えろあり
榎益←亀井




ふつふつと獣に為る、


×××


禁忌の行為だと思う。しかしそれがタブーであればあるほど裏に秘めた魅力は舌が痺れるほどに甘い。べろべろとなめ回した性器は言っては何だが迚も端整だと思った。(終わってる、な)終わり?それがなんだと、言うのだろう。ただただ胸の奥が焼けるように熱く、腹の腑からしろしろと、気持ち良さが染み出す。自分の心臓の音だけが妙に聞こえる。茫とする。働かない頭は快楽に従順だ。「あ、そこ、」ちかちかと目が快感に眩む。涎が垂れそうになるのを必死で手で抑える。下から、探偵が容赦なく突いてくる。「っぅ、っ、ッあ、っ、」くうと喉を快感が塞ぎ益田は夢中でひくひくと体をたゆませた。空気を求めて口を開くけれども快感のやりばがわからないから吸えない。
なんだか呆れるほど美しい彼と性交しているのなど信じられない。ゆめだと思う。今までの汚い自分の経験の相手の首を、首だけ榎木津にすげかえて、益田は一人万年床の上で身もだえしているのかもしれずだとすればきもひいい、と今までの相手にしたように喘ぐのだって許されることなような気がした。榎木津は一瞬動きを止める。そして気持ちいいのかおまえ、と言う。「は、い、あ、…っも、っおっきくて…っあっぁ」
売女の様なせりふだと思う。ただ快楽が口から溢れ零れていった。とめられぬ。はあはあと息を荒げ身もだえする自分の頭に榎木津は何を見ているのだろう。記憶。見たもの。彼は人が見たものを視る。なんだか心臓をわしづかみにされることに似ている。「っぁ…あっあっああっ、っぁ」
えのきづさん、と彼の名を呼んだ。えのきづ、えのきづ、えのきづさん。彼は一度だけ鬱陶しそうになんだバカオロカ、と返した。下からは容赦のない突きがくる。なんだか助けてと縋りたくなった。だけれどそれはただその肉体の快感によるものなのか。それとも精神の孤独、か。神はそこまで暴いてはくれぬ。そこまで見通してはくれぬ。彼はあったことしか見ない。見ることのできない。そんなものかもしれない。人はみな、ある意味で盲目であるのかもしれなかった。あっああ、ああ、あっ。目の前がちかちかとする。口を抑え涎が垂れてゆくのをとめた。がくがくと体が震えて前髪が顔に当たる。ふああん、きもちいいよお、ばかみたいに喘ぎながら彼を見た。気づき彼は半眼を合わせて来る。
たゆたう。ばらのかおりの中に死す。細ってゆく理性のなかで益田は彼の花葬はさぞ美しかろうと思った。


×××


抱いてください。躊躇いながら薄い唇が零した言葉は全く榎木津の予想の範疇外にあった。
益田、のことなど知らない。何一つ、と枕言葉をつけたっていい。知る気、もない。これからだって。今まで、だって。
榎木津は呆気にとられながら外出用のスーツの上着を、依頼人用のソファーに脱いで置いた。片付けるのはカズトラだからどうだっていい。
「…」薄汚い男と供の閨の記憶は時折彼の向こうによぎる。パターンは多分見る度に違った。けれど大概がこいつに覆いかぶさるようにしていた。だから知らないというのは嘘になる。
榎木津はネクタイを緩める。むしろ益田は開き直るように言った。或いは自棄か。「慣れてるんで。きっと気持ちいい、ですよ」
こいつは馬鹿だ。馬鹿で愚かだ。
その裏にはきっと思慮があるだろう。こいつは結局は真面目だ。軽率なことは嫌いなんだと思う。なのにこんなことを言う。裏にある想いなどみなどこかに片付けて見せずにただそんな無茶苦茶な要求だけを突き付けている。お前はあほうだと言った。益田は前髪を垂らして弱く笑った。
「知ってます」


×××


閉じ込めて。あの人の世界を僕一色に染める。毎日一緒に暮らす。どこにも行けないように。僕以外の誰も知れないように。
淡い夢想を亀井は煙草の烟に溶かす。あるいは酒に薄める。毒をのむようにそれらを吸い込み、いずれ吐き出す。あたまがいたい。恋患いなどとよく言ったものだ。でもそれはもしかしたら不眠のせいか、このところ働きづめの肝臓と、肺からくるのか。
目をつむる。脳裏に弾ける。あの人。
きっと好きな人がいるのだろう。そしてそれは僕じゃない。いつかなら亀井を好いていたのかもしれない。それとも僕はもしかしたら始めから遊びだったか。やさしい先輩。やさしい。やさしい。よわく笑う。傷を被うように。隠すように。こんなの見ないでよと言いふざけるふりをして逃げる。その汚さでさえ、好きなのに。醜さでさえ、亀井はきっと、愛す。のに。
哀しい。悲しい。愛(かな)しい。「…せんぱい…」
独り寝は淋しい。あの人は今夜も誰かに抱かれているのか。亀井は覚えた彼の体を抱き寄せる。空を掴む手。閉じればこびりつくあの人の顔。ほそくて意外ときれいな体の線。
触れたい。嘗めたい。抱きたい。
せんぱい。
ごろりと亀井は万年床で寝返りをうつ。天井。
「…ますだ、せんぱい…」
すきですと。言う言葉はすぐに消える。亀井は自分の指を見る。あの人のしなやかな細い指とは似ても似つかぬ。けれど幾度かは絡ませ合うこともできた。この指。あの肌に走らせた。三日月がおよぐように夜空をよぎる。月の光。げっこう。あの人はあの指で鍵盤をたたくらしい。見たい。というか会いたい。先輩に。先輩。先輩。ますだ先輩。
蛍光灯がちかつく。闇がおちる。初夏の薄い布団はなんだか心を走らせる。「…すき、です。どうすればいい、ですか…」
気づけば辿るように、呟いていた。





120520
(乱反射、)終わり、(それから、)

よかったこれは完結できそうだ
いや他のもがんばってみますけども
なんか恋愛小説ですねえ
そして文体が変わってくのがわかる
楽しい…




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