何故ここに来るんだねと厭味たらしく言うと彼(女)はむっとした顔をしてこちらを一瞬睨んでから、逃げるように視線をそらした。于遠なる不可解な行動は別に平時のことだから気にはならないけれども、やはりどこか勝手は違うものだと中禅寺は鉄面皮の奥で思う。
とりあえず座布団を勧めるとありがとうございますと云い坐る。そうしてふと気がついたように、中禅寺さんに座布団勧められるの初めてじゃないですかと益田は云った。そりゃあ君、僕の目の前にいるのはわけのわからない症状を催している不可解な人間なんだからね、そりゃあ気も遣うよ。そう返せばそうですかとあっさり応える声。変な奴だとぼんやりと思った。
何処からか来た柘榴を構い、益田はよしよしとその頭を撫でる。何の変哲もない背広に包まれた脚。元々男らしくはない体格をしていた益田だが、外見は―とりあえず、服の上から見た限りでは―あまり変わらなかった。何となく指とか、顔の線が柔らかくなったかどうかという程度である。益田龍一という人間は元来何処か中性的な節がある、ように思う。女、男。そう変わらないようだ。元々自らの性にあまりアイデンティティを見出ださない人間なのだろうか。
益田の黒い前髪が額から垂れている。細い指であやされた柘榴が、にゃあと鳴く。柘榴ちゃんは可愛いねえと、猫にまで太鼓持ちのようなことを言うから中禅寺は思わず笑いそうになった。何となく咳ばらいでごまかす。視線を上げた益田に尋いた。
「嫁にやるかね」
「―…はあ?猫をですか」なかなかそれは、惨めですね、と益田は言い、ケケケと笑う。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -