おはようララバイ
よく晴れた、天気の良い朝だった。だけれど窓から射す日に較べて部屋の温度は低くて、思わず青木は近くにある暖かいものを抱き寄せた。骨張って、薄いそれ。さらさらとした黒髪に顎を埋めてつるりと背中を撫でたところで、彼は漸く、それが恋人の益田龍一だと気がついた。 (……―あぁー。まあいっか) 起きぬけの寝ぼけた頭で青木は思う。自慢ではないがそう寝起きが良い質ではないのだ。 特に意地を張っているつもりでも、照れくさがっているつもりもないのだけれど、あまりこうしたスキンシップを、青木と益田はしない。それは付き合う前の友人だった頃も、こうなってからも変わらなくて。 (いやそれは…益田くんも悪いんだ)うとうとした頭で青木は、誰にともなく思考を転がした。 話をはぐらかすのだって、そういう雰囲気を避けるのだって、手を伸ばすとするりと身をかわすのだって彼のほうだ。それでもセックスに積極的なのはむしろ彼の方かもしれないが(昨夜だって彼が誘った)。 それでじゃあ嫌なんだったらと思って青木も、そうした接触を差し控えるようになった。十代の餓鬼ではもうないし、それに相手は女ではない。いやに骨張った、軽薄な男だ。特別触り心地が良い、わけでもない。(ん、む…) そんなことを考えながら青木は鼻から息を吐き出す。すうすうと寝息をたてている暖かな体を抱えて、どうにか骨が当たらないところを探した。思考と行動が一致していない。滑らかな髪の感触。口元から鼻を埋めるようにし匂いを嗅いだ。(しかたないよな…だって、結局、好きなんだしな) 首筋とか。意外ときれいな体の線とか。八重歯とか。かるいくせに心地好い声とか。うとうとと青木は恋人のことを思いながらまどろむ。小さい尻。細く伸びた脚。笑うと更に細くなる、目。
くるしい、 と思って目が覚めた。開いた視界に映るのは彼の肌の色で一瞬混乱する。濃く青木のにおいがした。煙草と汗と僅かな石鹸と。驚いたあとに漸く、抱きしめられているのだと認識した。 「ぁ、あおきさ、…」 声をかけようとして、ふと安らかな相手の寝息に気付き益田は口をつぐむ。青木は深く寝入っているようだった。呼吸の度に上下する胸がくすぐったかった。すう、すう、すう…まるで子供の寝息だ。 「――、」連日忙しいことが分かっている彼を、久し振りの休日の朝に起こすのも忍びない気がした。時計を見遣ると午前七時。もう少しくらい寝ていたっていい。 朝ごはん、とか。つくってあげるつもりだったんだけどなあ。でも、二人でつくるのだっていいかもしれない。めんどくさくなっちゃったらどこかに食べに行ってもいいし。 …ふふ、 思わずそんなやわらかな笑いが零れて、益田は自分に驚く。こんな笑い方をしたのはいつぶりだろう。誰も聞いていないのに少し照れ臭かった。ごまかすように青木の胸もとに顔を埋め、益田は彼の匂いをかぐ。 (んん…気持ちいい) おはようは先にキスして言いたい。再び襲う眠けにそう抗って、――結局益田はまぶたを閉じた。
good morning, lullaby
この朝がいつまでも続くよう
120313 いつ書いたか覚えてないな… 加筆修整してアップ |