五 木々たちがざわめいていた。 感じる風が生ぬるかった。 嫌な予感を、知らせてくれた。 「ハァ…ンあぁ…」 ……耳に届いた卑猥なよがり声。 庭の隅に隠れて、やらしい人影が二つ。 無造作に点々と脱ぎ捨てられた着物を目で追えば、安易に二人の姿が視認できた。 「才蔵……」 もう一人は 「……鎌之介」 ほんの先ほどまで、屋根の上で顔を合わせていた男が、今、裸体を曝し同性相手に嬌声をあげている。 ―衝撃的だった。 佐助は、とっさに彼らから目を背けた。 女性経験が無い自分にも、アレが何をしているのかはわかる。アナが言っていた、筆下ろしどころの話ではない。相手は、男だ。しかもよくよく見知った…。 (否否否!) 見間違いだと頭を振り乱してみても、聞こえる声はむしろ激しくなるばかりだった。早くこの場から立ち去らねば。見てはいけないものを見てしまった。 (散散!我!) 完全に冷静さを欠いた佐助。思いとは裏腹に足が動かない。心臓の鼓動音だけが別次元の中で流れる。 なんと情けない忍か―。 他人の情事に出くわしたくらいで、何を取り乱している…! 武器の稽古を手伝ってもらった巨木に身を隠し、聞き耳を立てている自分。見てみぬ振りをしようとしているくせに、なんとやらしい己。佐助はこの状況を少しずつ飲み込み、理解し、結果付けていた。 才蔵が、鎌之介と……。 「ああぁッ…さいぞぉ…イきそっ…だ」 早く早く、立ち去れ。早く早く。 焦れば焦るほど、耳が澄まされていく。聞こえる声がより鮮明になる。木々のざわめきや動物の遠吠えは聴覚をすり抜けていった。 どんどんどんどんと、 ただ鎌之介の泣き声だけが、佐助の中に入っていく。 「熱……身体」 身を焦がすような熱さに、佐助はカーッと赤面が止まらない。脈という脈がドクドクドクドク血を沸騰させているみたいだ。 …最も熱い、その部分に自身でも驚いた。 ―佐助は、勃起していた。 この状況で、鎌之介の嬌声を聞いただけで、たぎる熱が一点に集中し始めているのだ。 ありえない…!ありえない!こんな不埒な身体、自分のものではない! 忍として鍛錬を欠かさない佐助。精神を研ぎ澄ませる努力もしてきた。色恋沙汰には出くわしたことがなかったが、色欲からは人一倍遠いところにいるはずだったのに。 なのに、こんなにも簡単に男が顔を出すなんて。 次 |