木々たちがざわめいていた。
感じる風が生ぬるかった。

嫌な予感を、知らせてくれた。

「ハァ…ンあぁ…」
……耳に届いた卑猥なよがり声。
庭の隅に隠れて、やらしい人影が二つ。
無造作に点々と脱ぎ捨てられた着物を目で追えば、安易に二人の姿が視認できた。
「才蔵……」
もう一人は
「……鎌之介」
ほんの先ほどまで、屋根の上で顔を合わせていた男が、今、裸体を曝し同性相手に嬌声をあげている。
 ―衝撃的だった。
佐助は、とっさに彼らから目を背けた。
女性経験が無い自分にも、アレが何をしているのかはわかる。アナが言っていた、筆下ろしどころの話ではない。相手は、男だ。しかもよくよく見知った…。
(否否否!)
見間違いだと頭を振り乱してみても、聞こえる声はむしろ激しくなるばかりだった。早くこの場から立ち去らねば。見てはいけないものを見てしまった。
(散散!我!)
完全に冷静さを欠いた佐助。思いとは裏腹に足が動かない。心臓の鼓動音だけが別次元の中で流れる。
なんと情けない忍か―。
他人の情事に出くわしたくらいで、何を取り乱している…!
武器の稽古を手伝ってもらった巨木に身を隠し、聞き耳を立てている自分。見てみぬ振りをしようとしているくせに、なんとやらしい己。佐助はこの状況を少しずつ飲み込み、理解し、結果付けていた。
才蔵が、鎌之介と……。
「ああぁッ…さいぞぉ…イきそっ…だ」
早く早く、立ち去れ。早く早く。
焦れば焦るほど、耳が澄まされていく。聞こえる声がより鮮明になる。木々のざわめきや動物の遠吠えは聴覚をすり抜けていった。

どんどんどんどんと、
ただ鎌之介の泣き声だけが、佐助の中に入っていく。

「熱……身体」
身を焦がすような熱さに、佐助はカーッと赤面が止まらない。脈という脈がドクドクドクドク血を沸騰させているみたいだ。
…最も熱い、その部分に自身でも驚いた。
 ―佐助は、勃起していた。
この状況で、鎌之介の嬌声を聞いただけで、たぎる熱が一点に集中し始めているのだ。
ありえない…!ありえない!こんな不埒な身体、自分のものではない!
忍として鍛錬を欠かさない佐助。精神を研ぎ澄ませる努力もしてきた。色恋沙汰には出くわしたことがなかったが、色欲からは人一倍遠いところにいるはずだったのに。
なのに、こんなにも簡単に男が顔を出すなんて。


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