障子に耳あり



鎌之介が部屋から出てこない。
どうせ、昨夜どっぷり呑んだ酒のせいだろう。
「二日酔いかよ…」
調子に乗って樽を空けたりするから、こうなるんだ。
それにしてもうるさい奴が一人いないだけでこんなにも静かなものか。
「…行ってあげれば?」
「はぁ?」
「鎌之介のところ。行ってやりたいって顔、してるわよ?」
ニヤリとこちらを横目で見るアナ。
「ふざけんなよ。静かで清々してるっつーの」
「…あなたが来るのを、彼きっと待ってるわ」
脳裏に鎌之介の姿が浮かぶ。アイツの事などどうでもいい。……という顔を装っているのがアナにはバレバレだったらしい。さすが長年の付き合い、と苦笑がもれる。
「まあ、せいぜい仲良く、ね?」
ひらひらとわざとらしく手を振り姿を消したアナ。
「あのバカとどう仲良くしろってんだ…」
誰に吐いたでもない苦言は照れ隠し。
才蔵は鎌之介の元へ向かった。

部屋の障子越し、人の声が聞こえる。
鎌之介の他に誰か居るのだろうか?
空気を読まず一気に開けてやろうと障子に手をかけたが、声の主に気づきその手を止めた。

「冷たい水は頭に響きますよ」
「んー…じゃあぬるい茶でいい」
「わかりました。淹れてきますね」

…六郎サンの声だ。
なんであの人があのバカのとこにいるんだ…。
才蔵は無意識のうちに聞き耳をたてていた。

「あああったま痛てええ」
「大丈夫ですか?やはり何か薬を用意しましょう…」
「いらね!こんなの寝てりゃ治る…ンだよ」
「大声は良くないですね」

なんか!仲良さそうじゃねえか。
鎌之介はずいぶん六郎に懐いているようだった。

「小姓!膝、出せ」
「…またですか?私はお茶を淹れに…」
「あー茶はいい!…してくれ」
「もう。仕方ない人ですね」

膝?膝ってなんだおい!!
自分の知らないところで二人の間に何があったというのだ。
「てめえら何してる!!」
たまらず、障子を全力で開け放つ。
物凄い音と共に部屋へ入り込んだ。
「ぬあああ!さ、才蔵!?」
「どうしたのですいきなり…」
「そそその状況は何なんだ…!」
 
 …鎌之介が六郎に膝枕されている。

「おまえら……そういう仲だったのか…」
「ハァ!?何か勘違いしてねえ!?俺はただ小姓の膝がちょうど良いもんで…」
「俺には…一度も膝枕しろなんて言わなかっただろ!」
「才蔵怒んなって…!だって…だって!おまえの膝、寝心地悪そうじゃねえか!」
カチーンッときた。
いかがわしい現場を目撃されてこの態度。到底許せるもんじゃない。
「試したことも無えくせに!六郎サンの太股はそんなによかったのか!?」
「そ、それなりに良い」
「あああもーいい、頭貸せ!」
「はぁ!無理やり膝枕されたくねえっつの!」
「いいから貸せオラァ!」
「やめろお!あったま痛てえぇええ」

二日酔いの攻防はこのあとしばらく続く。
「……お茶淹れてこよう」



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