「な、なんだよ」
月に澄まされた佐助の瞳が鎌之介をとらえる。
彼は、何も言わない。
「おい…いつまで掴んでんだ。腕、離せ…!」
言われてハッとしたように、掴まれた時と同じくらい突然に、佐助は鎌之介を離した。
「んだよいきなり!びっくりすんだろ、クソサルがっ」
不機嫌に悪態をついても、佐助はやはり何も言わない。ただ静かに鎌之介を見つめていた。
そんな風にされると…、こちらも彼から目が離せなくなる。
「ああ!もうホント、なんだって聞いてんだよっ!」
「……無い」
「ハァ!?」
「なんでも無い!」
―バサァ!
盛大な風を立て、佐助は月の方へ飛び去ってしまった。
ひとり取り残された鎌之介。どんどん小さくなっていく背を睨みつけながら、ただ呆然とするしかなかった。

「おい、何してんだ」

「そりゃこっちが聞きてえよ!」
「……いきなり何なんだおまえは」
「!!」
声の方を見下ろせば、そこには捜し求めた男。
「さいぞー!!」
パァッと視界が開けたような気がして、鎌之介は一気に屋根を駆け下りる。
「捜したんだぞ!どこほっつき歩いてやがった!」
「はぁ…?俺は厠に行っていただけだが」
「厠ァ!?」
なんだと!目と鼻の先にいたわけじゃねえか!
先ほどまで歩き回っていた時間を思い出すと、めちゃくちゃ腹が立った。本当はコイツをこてんぱに責め立ててやりたい。が、今はそんなことより、そんなことより……!
「才蔵!ヤろうぜ!」
「……! てめえ、またそれかよ!」
「別にイイじゃねーか!」
「今日はナシだ、ナシ」
「えええェェ!残酷だろオォ」
この身体の疼きはどうしたらいい?アツくてアツくて仕方ない身体の真ん中が、才蔵を求めているというのに。それだけのために、こうして捜し回って、やっと見つけたというのに!
「あんな快楽を俺に教えたのは、才蔵だろうがよォ!責任取れよ、責任」
血で血を洗う命と命の削り合い。傷だらけのボロボロになり足も立たず腕も上がらない、喉から息すらも出てこない、あの苦しさ!己の肉体と精神の散り際。鎌之介が欲していた快楽とは本来、そこにあったはずなのに。
「イきたくてイきたくイきたくてよォ!どうしようもないんだって!」
今、一番望んでいるものは、逝けるほどの高揚。―否。逝くほどイかせてくれる才蔵のアツいモノ。
「言ったろ?あれは気まぐれだって」
「気まぐれが何回もあってたまるかってんだ!」
実際、二人の関係は何度も続いていた。



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