二 「な、なんだよ」 月に澄まされた佐助の瞳が鎌之介をとらえる。 彼は、何も言わない。 「おい…いつまで掴んでんだ。腕、離せ…!」 言われてハッとしたように、掴まれた時と同じくらい突然に、佐助は鎌之介を離した。 「んだよいきなり!びっくりすんだろ、クソサルがっ」 不機嫌に悪態をついても、佐助はやはり何も言わない。ただ静かに鎌之介を見つめていた。 そんな風にされると…、こちらも彼から目が離せなくなる。 「ああ!もうホント、なんだって聞いてんだよっ!」 「……無い」 「ハァ!?」 「なんでも無い!」 ―バサァ! 盛大な風を立て、佐助は月の方へ飛び去ってしまった。 ひとり取り残された鎌之介。どんどん小さくなっていく背を睨みつけながら、ただ呆然とするしかなかった。 「おい、何してんだ」 「そりゃこっちが聞きてえよ!」 「……いきなり何なんだおまえは」 「!!」 声の方を見下ろせば、そこには捜し求めた男。 「さいぞー!!」 パァッと視界が開けたような気がして、鎌之介は一気に屋根を駆け下りる。 「捜したんだぞ!どこほっつき歩いてやがった!」 「はぁ…?俺は厠に行っていただけだが」 「厠ァ!?」 なんだと!目と鼻の先にいたわけじゃねえか! 先ほどまで歩き回っていた時間を思い出すと、めちゃくちゃ腹が立った。本当はコイツをこてんぱに責め立ててやりたい。が、今はそんなことより、そんなことより……! 「才蔵!ヤろうぜ!」 「……! てめえ、またそれかよ!」 「別にイイじゃねーか!」 「今日はナシだ、ナシ」 「えええェェ!残酷だろオォ」 この身体の疼きはどうしたらいい?アツくてアツくて仕方ない身体の真ん中が、才蔵を求めているというのに。それだけのために、こうして捜し回って、やっと見つけたというのに! 「あんな快楽を俺に教えたのは、才蔵だろうがよォ!責任取れよ、責任」 血で血を洗う命と命の削り合い。傷だらけのボロボロになり足も立たず腕も上がらない、喉から息すらも出てこない、あの苦しさ!己の肉体と精神の散り際。鎌之介が欲していた快楽とは本来、そこにあったはずなのに。 「イきたくてイきたくイきたくてよォ!どうしようもないんだって!」 今、一番望んでいるものは、逝けるほどの高揚。―否。逝くほどイかせてくれる才蔵のアツいモノ。 「言ったろ?あれは気まぐれだって」 「気まぐれが何回もあってたまるかってんだ!」 実際、二人の関係は何度も続いていた。 次 |