竜の気まぐれ

※微裏表現あり

「殿……これはどういう状況でしょうか」
「女一人連れ帰ったんでよろしく」
「殿………」

小十郎の盛大なため息を完全無視し、独眼竜は持論を展開する。
「奇魂…よりも気になっちまってよ。あの紅髪が」
「…で、さらってきたと」
「そうだ」
出雲での戦う様を見、すがすがしいほど好戦的な女だと思った。
風を起こすあの鎖鎌も興味深い。手駒のひとつとしても使える上、なかなか好みの女だった。
「そうなればさらうしかねえだろう?」
何度目かの深いため息を背に、伊達政宗は座敷牢へ向かった。

「クソッ!!何のつもりだてめえら!」
長い髪を乱して牢をめちゃくちゃに暴れ回っている女。
「さっきからあの調子で……手が付けられません」
弐虎のボコボコに腫れた顔を見ればすべてが飲み込めた。
「ご苦労だったな。下がって良いぞ。あとは俺に任せろ」
言うなり、政宗はずかずかと座敷牢の中へ入り込む。
「ずいぶん派手にやってくれたなあ?」
鎖鎌を取り上げているというのに見事な暴れっぷり。
「あっぱれだぞ」
「……てめえ…殺す!!」
有無を言わさぬ勢いで政宗に飛びかかる影。
手錠など何の枷にもならないといった風に、こちらが避ければ素早く追ってくる。
「イイ立ち回りだぜ」
女にしておくのが勿体無いくらいだ。
「だが…な」

 ―ドサッ!

「なっ…!」
足を引っかけふらついた体を思いっきり押し倒した。
政宗にとってこれしきハエを叩くより安易だ。
「今すぐてめえを犯して空っぽにしてやることだって出来るんだぜ?」
「ハァ!?」
「この細い首をかっ捌いて殺すのも簡単だ」
「んな脅し…効かねえよクソッタレ」
紅髪は舌を出して政宗を挑発的に睨み付けた。
「……フハハ…」
「何が可笑しい」
この状況でこれだけの啖呵が切れるとは。…笑いが出るほど見上げた馬鹿だ。
「おまえ、名は?」
「………」
「名乗れば鎖鎌を返してやろう」
「返す気なんてねえだろ!見え透いた嘘つくんじゃねえ」
「嘘?何故そんな必要がある。鎖鎌が有ろうと無かろうと、おまえの劣勢は変わらねえよ」
どんな武器も打ち捨てるだけの力が政宗にはある、と自負している。
「ほんっとムカつく野郎だなぁ!?鎌で刻み殺してやる!俺は…鎖鎌の由利鎌之介だ!!」
「鎌之介…あざなか?」
「本名だバカ!!」
「…ほう」
男のような名が腑に落ちなかった。
政宗は組敷いた身体に手を這わす。片腕で抵抗を封じ、もう片方で鎌之介の胸元を探った。
「おいっ!」
胸の膨らみはない。
「…貧しい乳だなあ?」
見るからに薄い胸板ではあった。しかし脱いだら凄い、という例はよくある。
一握の期待と共に着物の隙間から手を差し入れる。
……人差し指が触れた胸の突起。二本の指でつまんでやった。
「…んっ!」
ビクンッと身体が跳ねる。
コリコリした突起の感触は女のそれと変わり無いが、直に触れても…やはり膨らみは感じなかった。
「反応はイイんだがなあ…」
「っざけんな…!」
鎌之介が物凄い形相でこちらを睨む。
「活きもいいんだが……」
「俺は、男だあああ!!」
「…あー。聞こえねえ」
 
いやはやどうしたものか―。
こんなところまで連れ帰ったはいいが、実は男でした…なんて。
『独眼竜の目が曇りましたか?』
…呆れる小十郎の声が聞こえたような気がした。

「まあ、いい」
胸に触れていた手を鎌之介の下半身へ滑らせる。
がさつな手つきで着物の中へ手を突っ込んだ。
「お、おい!てめっ…」
ぎゅっ、と局部を握り締めてやる。
「ちょっ!」
「ほう…本当に男か。細やかながら立派なモンが付いてやがるぜ」
「や、やめろ…」
「初めて怯えたなあ?恐いか、俺が」
とうとう俺も焼きが回った。奇魂やら何やらで……そう、きっと疲れているのだ。
「覚えておけ、鎌之介。俺の名は伊達政宗。いまからおまえを犯す男の名だ」
血気盛んな瞳を恐怖に陥れるのは、ゾクゾクする。
「……自惚れんな。犯そうが何しようがカンケーねえ」
「強がりか」
「ちげえよ。てめえは俺が殺るって決めたんだ。殺す奴の名に興味ねーよ」
政宗を射抜く眼差しから恐れは消えていた。一瞬で恐怖を喰い己のものにする…か。まったく、底知れぬ男よ。
「なあ、俺の駒になれよ」
「いやだ」
「…だろうな」

独眼竜が計れない男、鎌之介。
面白いものを手に入れた。しばらくは暇をせずに済みそうだ。
「小十郎に寝床を用意させる。ま、ゆっくりしてけよ」
「ハァ!?なんもしねえのか」
「なんだ。名残惜しいか?」
「…バッカ!んなわけあるかあ!」
…いちいちうるさい奴だ。

騒々しい日々が始まる予感がした。



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