ちっちゃくてもいい?



佐助が居なくなった。

森にでも偵察に行っているのだろうと気にしていなかったが、あの猿は…とうとう夜になっても戻らなかった。
幸村に無言で消えるなど考えがたい。
『あやつのことだ。心配いらぬわ』
幸村は笑ってやり過ごした。
…佐助の身に何か起きたに違いない。
真田のおっさんは役に立たないと見切り、勇士たちの先陣をきって城を飛び出したのは、鎌之介。

「クソ猿!どこ行きやがった…!」

夜の森は深い。
闇には慣れているつもりだったが、ぬかるんで歩き辛い地面に何度も足をとられる。
勢いで飛び出してきたはいいが、佐助はこんな森にいるのか…?
考えても、他に行きそうな場所の検討がつかない。だからと言って幸村のように城で帰りをただ待つなど、到底出来なかった。
想っていても、思ったよりも知らない、佐助のこと。

 ―ガサッ
「!?」
茂る緑の奥。不穏な音が響いた。

 ―ガサガサッ!!

「ンだァ!?」
鎖鎌を手に振り返る。
「出てきやがれコラァ!」
いつでも鎌を降り下ろせる臨戦態勢をとった。

「……かま…のすけ?」

「……なっ…」
暗闇に紛れ姿を見せた、小さな影。目を細め黒い影に焦点を合わせる。
「かまのすけ!」
足元から届く声に聞き覚えがあった。
「さ、佐助…?」
「うん…」
「なんか、なんか…ちっちゃくね…?」
その姿に拍子抜けした。声もいつものそれより甲高い。
「…朝、こうなってた」
地面にへたりこんで落ち込む、小さな佐助。緑の頭巾が目まで覆っている。よくみれば着物もだぼだぼに布が余っている。紐で縛りかろうじて「着物」の形を保っている状態だ。
「えーっと…なんで?」
「…わからない!われ、こまる…」
一生懸命に鎌之介を見上げている佐助。心なしかしゃべり方もつたない。
「どうなってんだよ一体…」
足を曲げ小さな身体と同じ目線に座る。
…それにしてもずいぶん幼くなってしまった。日頃の凛とした雰囲気もない。
本当に、ただの小わっぱ。
「佐助の子供みたいだな」
「さすけだ!」
頬を膨らませ鎌之介を睨みあげる。懸命に反論する様も……
「か、可愛いなァ…」
胸の奥がむず痒い。クシャクシャに愛で回したくなる、あの変な感じ。
「いな!かわいくない…っ」
怒れば怒るほど、なんだこの生き物!可愛いじゃねぇか!
「ちょっと…触っていい?」
答えを待たず、緑の被り物を頭から引き剥がす。
「や、やめろ!」
抵抗する手も驚くほど小さい。
「あー、はいはい」
わしゃわしゃ!
小佐助を適当にあしらってから栗色の髪を撫でまくってやった。
(柔らけえ髪…嫌がる姿も可愛いじゃねえか…!)
そういえば、ニョロもこんなふうに嫌がって、じきに落ち着き慣れたのだ。
まあ…あんまり苛めてはかわいそうか、と思い直す。
「んで!どーすんだよテメェ」
「われ、帰れない…。こんな体、幸村さま、さらせない」
「ずっと森にでも篭ってるわけ?」
「……今はそうするしかない」
大変な状態に陥っているというのに、律儀な猿は主のことを一番に気にかける。

……ああ。気に入らない。

「ふぅん。まあ帰らなくていいんじゃね?おっさん、心配もしてねえよ…居なくなったおまえのこと」
目の前の瞳が僅かに沈む。
「…それで、良い。心配かけるより、良い」
鎌之介を見つめる目の奥に、凛とした決意が戻った。
体が小さくなろうが、猿飛佐助は揺るがない。
「あああそうかよ!いつでもテメェは幸村幸村だよなぁ!?……勝手にしろよクソがっ」
……少しだけ、期待した。
小さくなった佐助は自分を頼ってくるのでは?と。
だが、違った。
こいつの最優先は、変わらず真田だった。
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