春雨



昨日も雨だった。
確か一昨日も雨だったろ?
今日も今日とて、上田にポツポツ響くのは雨音のみ。
鎌之介は縁側に腰掛け空を見上げていた。濡れた風が湿った匂いを運んでくる。
「…つまんねーの」
先程から欠伸がとまらない。だからと言ってこんな天気の中、どこかへ出るのは面倒だ。
…都合の良い喧嘩相手も今はいない。皆、用やら偵察やらで城の外へ出払っている。
「あああ…なんか面っ白れえこと起きろ!」

 ーチョロッ

チョロチョロ。
「……ニョロかあ!」
やっと暇潰しを見つけた!
鎌之介は、白く細長い毛むくじゃらを追いかけた。
「つかまえたァ!」
「ブギャ」
小さな獣を片手で軽く持ち上げる。
「よう。あそぼーぜニョロ!」
「プギャ(いやだね)」
「……なんかおまえ嫌な顔したろ」
言葉は通じなくとも、なんとなく意志疎通が可能になってきた今日この頃。
鎌之介は自分の膝上にニョロを乗せ、その背中を撫でてやる。
「フギャキャッ(乱暴にすんなよ)」
「ん?気持ちイイだろ。にしてもおまえ…ちょっと湿気てね?」
「キャッ(まあ雨だからなッ)」
「ヤだよなあ雨。血の雨なら大歓迎だぜ」
「ブシャァ…(こいつヤバイなおい…)」

雨は降り止まない。
ニョロと鎌之介の間に流れる静かな時間。
「アイツ、この雨の中見張ってんのか」
「キャ(佐助はがんばり屋だからな)」
「…風邪、ひかねえといいな」
「シャァ(そうだな)」
「早く…帰ってこねえかな…」
「………」

絶えず撫でられていた手が止まった。しばらくして安らかな眠気が鎌之介を包む。
それを見計らい、ニョロは彼の膝からそっと抜け出した。


「雨春。大事、無い?」
偵察から無事帰還した佐助。その優しい肩の上に帰る。同時に、ニョロから雨春へと戻った。
「彼奴、意地悪しない?」
心配そうな瞳が雨春に向けられる。
「プギャッ!…シャァ。キャッ(鎌之介は良い奴だ!…おまえに早く会いたがってたぞ。良かったなッ) 」
瞬間、驚いたような顔を見せ、徐々に赤く染まっていく頬。
佐助の目に想い人の姿が浮かぶ。

「鎌之介……我も、会いたし」

春の雨は、秘める想いを届けてくれる―。



≫相互お礼のお礼を書かせて頂きました。粗末ながら流野様へ捧げます…!ありがとうございました!


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