性交指南



「あのさー…。もうちょい激しくできねぇの?」
「…なっ」

快楽の波が押しては引いていく。
イきそうになるのにイけない。
足りない。あと一線を越えた昂ぶりが、足りない。
「我…、必死」
「わかってるけどよ、なんかこう、はっきり言って自慰してるほうが早くイけそうなんだけど」
「……そんな」
こういう行為は慣れだ、と思う。上になるのは佐助だが、情事の主導権は鎌之介のほうにあった。

佐助は圧倒的に経験不足だ。
そして、優しすぎる。相手を痛めつけないように、という気遣いが今は邪魔に感じられた。
「ど、どうすれば、良い」
「んー…」
聞かれて、具体的に考えてみる。
「あれだ。動きが一定!もっと抑揚つけて犯せ!」
「お、お、おかす」
大事なのはそこじゃなくて、抑揚って部分なんだけど。
「ンあー、でも動きが遅すぎるのは御免だぜ?」
「…諾」
「あと愛撫と接吻」
「難しい…!」
何はともあれ実践あるのみ。口で言ってもわからない奴には身体で教えるしかない。
すでに後部に挿入されていた熱が、ズルリと引き抜ぬかれる。
繋がっていた後孔からはドクドクと卑猥な汁が溢れ、尻を伝い落ちた。
足を開きなおし、佐助がヤりやすいようにしてやる。あまり長い間行為をしていると持ち上げられた足がひどく痺れるのだが、そんなことを言うとこの男はさらに手を緩めそうなので、言わないことにした。
「…んっ!」
佐助の勃起したモノが再び狭い急所へとおさまる。何度挿れられても、瞬間の圧迫感は消えない。メシメシと内臓を押し開かれる痛みもある。
行為を重ねて変わっていくのは、その痛みが快感へと変わる速度。
先端から根本まで、自らの孔奥へと飲み込んだ。
「…動く」
最初は嫌気が差すほどゆっくりと。徐々に速まっていく腰の動き。
「んあぁ…」
腕を回して、栗色の髪の毛をグシャグシャに掻き乱してやった。
そうすると、佐助のほうから降ってくる接吻。
こんなときでも彼の口づけは優しい。
早まった抜き差しの動作が一瞬、緩められた。かと思えば、再び素速い挿入が繰り返される。ヒクヒクと震える過敏な孔。
「…はぁ…はぁ…んんっ」
「鎌…之介、気持ち…いい?」
耳元で囁かれ不覚にも、ゾクリとしてしまう。
「ん…見りゃわかんだろォ」
「我、うまく…出来ている?」
「イイんじゃ…ね?」
ずいぶんと、イイ。
「なぁ…触ってくれよ…」
足を持ち上げていた彼の左手をとり、己の胸元へ誘う。そして、そのまま手を滑らせ下半身を触らせる。
「…握れよ」
佐助は言われるまま、天を向く鎌之介の男性器を握り締めた。
擦って、とまで言わずとも扱きがほどこされる。
「ああっ!んん…」
たちまち襲う、とてつもない衝撃。意識が宙をさ迷う中で虚ろに栗毛を眺めた。
ベトベトに濡れきった性器はまるで、佐助の手に吸い付くようだった。
苦しくて苦しくて、楽にしてくれる相手にすがり付く。
「さ、佐助…」
相手を見やれば、佐助は繋がった局部を一心に見つめていた。
「見ん…なよバカ…」
接合部から押し上がってくる、なけなしの羞恥心。
「……ちゃんと、繋がっている。嬉しい…」
「…あったりめえだろ」
純な男に噛み付くような接吻を捧げた。
舌先で唇もろとも舐めまわすと、遠慮がちに舌が絡み合ってくる。
後孔も口も心も繋がって、このまま一つに溶けてしまいそう。
「…んっ…我、イきそ…」
「俺も、だぜェ…」
とっくに超えた限界を放つときがきた。
蝋燭のわずかな火に灯された彼の横顔がひどく切羽詰っていて、ますます煽られる。
この堅物がこんな表情もできるのかと驚いた。
凛とした忍の欠片もない、ただの男の顔。
今夜いちばんの速さで腰を突かれる。
「あん…ん、んんぁあっ!」
「んっ…かま…の、すけ…!」
 ―ドピュアッ!
達した。ほぼ同時にアツい精液を放った。
佐助の蜜は秘部の奥へ、鎌之介の蜜は佐助の腹へ。
「ハァ…ハァ…」
上がった息が治まらない。二人とも肩で呼吸をしている。
「…ヤりゃできるじゃん…」
ウブのくせによくがんばったと、頭を撫でてやる。
触れた佐助の頬が、燃えるほど熱くなっていた。

―翌朝

柔らかな日差しが朝を告げる。
愛しい男が目を覚ます前に、佐助は部屋を後にした。
自室に戻ると、昨夜の出来事を頭の中で辿った。
……少しは満足してくれただろうか。
自分は、経験が無い。初めてのことばかりでぎこちない動きしか出来ない。
欲求不満を隠さない鎌之介。男として傷つくようなことをたまに言われるが、それだけ自分が下手くそなのだろう、と思う。
上手になるにはどうすればいいか?
一しきり考え込んで、佐助は筆をとった。
何も書かれていない巻物に、字をしたためる。
 ―性交指南書。
血気盛んな想い人に教えられた性行為のアレやコレを記録することにした。
「…抑揚つけて、お、お」
犯す、という単語を字にするのが躊躇われる。
…こういう羞恥心が、鎌之介に不満を積もらせるのだ。自己嫌悪。
(字にすることも出来ないのに、行為に及ぶことは出来ない!)
思い直して、もう一度筆に墨をつける。

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