四 「おっ。ちょいと紅髪のお嬢さん」 ―んな!? 「だーれがお嬢さんだオラァ!」 ズバッ! 物凄い剣幕で振り向く鎌之介。 「眉間にシワ寄せて、綺麗な顔が台無しだぜ、お嬢さん」 んな…ななな!! 「…才蔵…!」 目の前にいる、いるはずのない男。 「なななんでここに…」 「何してんだよこんなとこで」 ぶっきらぼうに投げ掛ける才蔵。 「お、俺は…散歩だよ散歩!」 「ああそうかい。まあいい、帰るぞ」 「ハァ!?んで俺がおまえと帰らなきゃならねーんだよ!つか、おまえこそ何してんだよ…!」 「俺?…あーあれだあれ。散歩」 「なあ!?」 あり得ねーよ! 才蔵のような男がこんなところで散歩など、あり得ない!絶対に何か思惑がある、と鎌之介は確信した。 …ジー。 「……不信感丸出しの目を俺に向けんな!」 「うっ!だ、だってよォ!おめえがここにいるなんておかしいだろオイ!」 「だーかーら散歩だっつってんだろが!おまえだって、散歩なんつー分かりやすい言い訳しやがって」 「てっめぇ!」 「あー!やっぱウゼェな鎌之介。少しは大人になったかと思ったのに」 やはりクソガキはクソガキだ、と才蔵は改めて実感した。 「どーいう意味だよ」 「別に大した意味ねぇよ。つーか、おまえどうした髪」 才蔵があごで鎌之介の頭を指す。 言われて自分の髪に手をあててみる。 「うあ!髪留め無くなってる…」 いつも右側でひとつに括っていた髪が、ハラリと散らばっていた。思い当たる節がある。 (グシャグシャしたとき、落としたかなぁ) 悶々と無我夢中で、髪留めが落ちたことにも気付かなかったらしい。 「探すのだりィなー」 あれはなかなかの気に入りだったが、来た道を戻って探すほどのものでもなかった。適当なものを買い直そう、と鎌之介は決めた。 「あーあーあー。こんなとこにナニカあるぞ」 懐を無造作に探る才蔵。 「お。これ、ちょうどいいんじゃないか?」 何やら白々しい男はサッと手を差し出した。 「なんだよ」 目の前に差し出された手をみれば、何か握られている。 「やるよ」 それはまるで、夕日に反射して輝く宝石のようだった。 とりあえず受け取る鎌之介。手にとってみれば、才蔵の胸に仕舞われていた温もりを感じた。 「これ……」 ―…黒塗りの玉かんざしだ。 先端には紅に近い橙色の珊瑚が装飾されている。 「お、俺に?」 くれるのか?と聞こうとして、才蔵はそっぽを向いてしまう。 「本当、たまたま持ってたんだ。まあおまえにやるから、使うも捨てるも好きにしろよ」 これって、どういうことだ?コイツが俺にかんざしをくれた、ってことだよな? 鎌之介の脳内で整理しきれない出来事がまた一つ増えた。 唯一確かなことは、 「あ、ありがとう…才蔵…!」 …めちゃくちゃ嬉しい、ということだった。ひねくれものが素直に礼など言ってしまうくらいに。 |