「おっ。ちょいと紅髪のお嬢さん」

 ―んな!?
「だーれがお嬢さんだオラァ!」
ズバッ!
物凄い剣幕で振り向く鎌之介。
「眉間にシワ寄せて、綺麗な顔が台無しだぜ、お嬢さん」
んな…ななな!!

「…才蔵…!」

目の前にいる、いるはずのない男。
「なななんでここに…」
「何してんだよこんなとこで」
ぶっきらぼうに投げ掛ける才蔵。
「お、俺は…散歩だよ散歩!」
「ああそうかい。まあいい、帰るぞ」
「ハァ!?んで俺がおまえと帰らなきゃならねーんだよ!つか、おまえこそ何してんだよ…!」
「俺?…あーあれだあれ。散歩」
「なあ!?」
あり得ねーよ!
才蔵のような男がこんなところで散歩など、あり得ない!絶対に何か思惑がある、と鎌之介は確信した。
…ジー。
「……不信感丸出しの目を俺に向けんな!」
「うっ!だ、だってよォ!おめえがここにいるなんておかしいだろオイ!」
「だーかーら散歩だっつってんだろが!おまえだって、散歩なんつー分かりやすい言い訳しやがって」
「てっめぇ!」
「あー!やっぱウゼェな鎌之介。少しは大人になったかと思ったのに」
やはりクソガキはクソガキだ、と才蔵は改めて実感した。
「どーいう意味だよ」
「別に大した意味ねぇよ。つーか、おまえどうした髪」
才蔵があごで鎌之介の頭を指す。
言われて自分の髪に手をあててみる。
「うあ!髪留め無くなってる…」
いつも右側でひとつに括っていた髪が、ハラリと散らばっていた。思い当たる節がある。
(グシャグシャしたとき、落としたかなぁ)
悶々と無我夢中で、髪留めが落ちたことにも気付かなかったらしい。
「探すのだりィなー」
あれはなかなかの気に入りだったが、来た道を戻って探すほどのものでもなかった。適当なものを買い直そう、と鎌之介は決めた。
「あーあーあー。こんなとこにナニカあるぞ」
懐を無造作に探る才蔵。
「お。これ、ちょうどいいんじゃないか?」
何やら白々しい男はサッと手を差し出した。
「なんだよ」
目の前に差し出された手をみれば、何か握られている。
「やるよ」
それはまるで、夕日に反射して輝く宝石のようだった。
とりあえず受け取る鎌之介。手にとってみれば、才蔵の胸に仕舞われていた温もりを感じた。
「これ……」
 ―…黒塗りの玉かんざしだ。
先端には紅に近い橙色の珊瑚が装飾されている。
「お、俺に?」
くれるのか?と聞こうとして、才蔵はそっぽを向いてしまう。
「本当、たまたま持ってたんだ。まあおまえにやるから、使うも捨てるも好きにしろよ」
これって、どういうことだ?コイツが俺にかんざしをくれた、ってことだよな?
鎌之介の脳内で整理しきれない出来事がまた一つ増えた。
唯一確かなことは、
「あ、ありがとう…才蔵…!」
 …めちゃくちゃ嬉しい、ということだった。ひねくれものが素直に礼など言ってしまうくらいに。



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