三 「気に入らねェ!ほんっと使えねえ奴!」 ―ジャリッ 鎌之介は大声でボヤキながら道端の石ころを蹴り上げた。 …全然スッキリしない。例え今どんなに人殺しをしたところでこの気分は晴れないだろう。 らしくない、と思った。 自分らしくない!空気を読めないことに定評のある自分が、相手の出方を気にして言いたいことを言えない、なんて。しかも… 女々しく城を飛び出してきてしまった。 「……アイツ、ぜってぇ呆れてる」 自身でも、この胸の中に巣食うモヤモヤの理由がわからない。鎌之介にとって、こんな想いは初めてなのだ。 殺意のない温かい手も、深慮深い優しい眼差しも、近頃の鎌之介には慣れない出来事が多すぎた。 んもう!頭ン中爆発しそうだっつーの!! グシャグシャ! 髪の毛を両手でぼさぼさにかき乱す。 「ハァ……才蔵……」 ぼんやり頭に浮かぶ名が無意識に口から零れた。 団子でも蕎麦でもただの散歩、でも良かったのだ。結局のところは何を言っても口実でしかないのだから。 「くっそさいぞぉー!!」 あああ!思い出せば腹の立つ! 『んま、気をつけて』だと!? こっちがどんな思いで声かけたと思ってんだよあのバカ!バカ!ばかああ! 「…………」 ……そうだ。 「俺…いったいどんな思いでアイツを甘味屋に誘ったんだ…」 ポカンと冷静さを取戻す。 城の外で、二人きりで、仕事に関係なく話ができたら…と。そう思っただけだ。 「でもそれって、おかしくないか…?」 鎌之介にとって才蔵は、快楽をくれる玩具。極限の殺し合いができる唯一の相手。無くては成らない存在―。 やんわりと自分の心に宿るなにか。 それが『何か』わかったとき、この胸の気持ち悪さが晴れるような気がした。 「ハァァァ……」 肺に溜まった酸素が全てため息に変わる。 ぼうっとしたまま足を進めた。 (俺、どこ向けて歩いてんだか……) とくに目的地はない。かと言ってこのまま帰るわけにはいかないのだ。鎌之介にも男の意地と見栄がある。 道中腹が減ったって、団子なんぞ腹が立って食えやしない! 伸びた己の影を踏み潰しながら、橙色に染まった道を途方もなく歩く。 (独りきりってのも、久しぶりだなぁ…) 罵声を浴びせる相手がいなければ、無口なものだ。 …意地ってやつが、こんなにも煩わしいものだとは知らなかった。 |