「気に入らねェ!ほんっと使えねえ奴!」
 ―ジャリッ
鎌之介は大声でボヤキながら道端の石ころを蹴り上げた。
…全然スッキリしない。例え今どんなに人殺しをしたところでこの気分は晴れないだろう。
らしくない、と思った。
自分らしくない!空気を読めないことに定評のある自分が、相手の出方を気にして言いたいことを言えない、なんて。しかも… 女々しく城を飛び出してきてしまった。
「……アイツ、ぜってぇ呆れてる」
自身でも、この胸の中に巣食うモヤモヤの理由がわからない。鎌之介にとって、こんな想いは初めてなのだ。
殺意のない温かい手も、深慮深い優しい眼差しも、近頃の鎌之介には慣れない出来事が多すぎた。
んもう!頭ン中爆発しそうだっつーの!!
 グシャグシャ!
髪の毛を両手でぼさぼさにかき乱す。
「ハァ……才蔵……」
ぼんやり頭に浮かぶ名が無意識に口から零れた。
団子でも蕎麦でもただの散歩、でも良かったのだ。結局のところは何を言っても口実でしかないのだから。
「くっそさいぞぉー!!」
あああ!思い出せば腹の立つ!
『んま、気をつけて』だと!?
こっちがどんな思いで声かけたと思ってんだよあのバカ!バカ!ばかああ!

「…………」

 ……そうだ。
「俺…いったいどんな思いでアイツを甘味屋に誘ったんだ…」
ポカンと冷静さを取戻す。
城の外で、二人きりで、仕事に関係なく話ができたら…と。そう思っただけだ。
「でもそれって、おかしくないか…?」
鎌之介にとって才蔵は、快楽をくれる玩具。極限の殺し合いができる唯一の相手。無くては成らない存在―。
やんわりと自分の心に宿るなにか。
それが『何か』わかったとき、この胸の気持ち悪さが晴れるような気がした。
「ハァァァ……」
肺に溜まった酸素が全てため息に変わる。
ぼうっとしたまま足を進めた。
(俺、どこ向けて歩いてんだか……)
とくに目的地はない。かと言ってこのまま帰るわけにはいかないのだ。鎌之介にも男の意地と見栄がある。
道中腹が減ったって、団子なんぞ腹が立って食えやしない!
伸びた己の影を踏み潰しながら、橙色に染まった道を途方もなく歩く。
(独りきりってのも、久しぶりだなぁ…)
罵声を浴びせる相手がいなければ、無口なものだ。
…意地ってやつが、こんなにも煩わしいものだとは知らなかった。




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