「甘味屋?そんなのいくらでもあるよ兄ちゃん」
「じゃあこの辺りでいっちばん、うまい団子が置いてある甘味屋はどこだ?」
「それなら……」

勢い余って城を飛び出してきたものの、甘味屋って…どこだよ!
そもそも鎌之介が一人でどこへ行ったのかも定かではない。とりあえず団子があるとこに行けば見つかるような気がしているだけだった。
「あのバカ…!」
こうして追ってきている自分も自分だ。柄じゃないと自嘲的なため息がこぼれる。
道中教えられた甘味屋へ向かいながら、ふと思う。
こんなご時勢でも世間は結構活気あんなぁ…と。斬り捨て御免、命よりも刀の切れ味が重んじられる時代だ。才蔵の生きてきた世界とは血の絶えない暗闇のような場所だった。こういった表舞台のごく平凡な日常に自分が紛れていることを、不思議に感じる。以前は居心地の悪さも感じていたが、今は違う。いつの間にか ―真田の勇士という自覚を持ってからは、世間と自分の間に違和感を感じることは殆ど無くなった。
ぬるま湯に浸かりきっている。
…いや、そうではない。
才蔵は見つけたのだ、居場所を。帰るべき場所を。守るべき者たちを。そのためなら今まで以上に強くなれる。背負うものが才蔵を本物の勇士にさせる。
アイツにとって…鎌之介にとって、あの城はどういう存在なんだろうな。居場所なんて思っちゃいないだろうが、あれでも十勇士の一人なのだ。
 ―いつか、いつか鎌之介にも、ここだと心底言える場所が見つかるといいと思った。
(なーんで急にそんなことを思ったんだか俺…。うるさい奴が傍にいねぇと要らんことを考えちまって調子狂うなぁ…)
早いとこアイツを見つけて連れ帰ろう。…んまあ団子くらい一緒に食ってやってもいい。
進める歩がより早まる。
と、しばらく歩いたところで人だかりができている。
「あそこか?」
今向かっているのはこの辺じゃ有名な、うまい串団子を売っている店らしい。人が溢れていてもおかしくない。
鎌之介はいるだろうか?
店中の様子を伺って紅髪を探す。ん…、よくよく見ると、客は女ばかりだ。それに何かを食べている風でもない。
「おい、ここはなんの店だ?」
女の一人を捕まえて問う。
「いま!人気の髪飾りを売ってるんだよ!」
「髪飾り?」
「そう、紅の鮮やかな装飾が流行りよ」
言いながら黒髪に映える髪飾りを得意げに見せる若い娘。
ここにいるわけねぇよな… 無駄に足を止めてしまった。
「似合いだな」
「ンフフッ」
小さく頬を染める娘。
礼を言って才蔵は再び歩き始める。
(流行の髪飾りねぇ…)
女たちが嬉しそうにかんざしや髪留めを選んでいるのも無理はない。確かにあの店にあるものは美しかった。女なら、そりゃ喜ぶだろうな。
……喜ぶだろうか。
何かを悶々と考えながら、才蔵の足は元来たほうへ方向転換していた。





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