団子より花


「さいぞーお!いま暇、暇?」
「あー、すっげぇ忙しいな」
「……どこがだよ!!」

日当たり抜群。南風の暖かい屋根の上は才蔵のお決まり出没地点になっていた。その背後をチョロチョロ追いかけてくる鎌之介の姿も、恒例化している。
「寝てるだけだろーがァ!暇です暇過ぎですって空気出てんぞ」
「っんだそれ、バーカ」
「ハァ!?バカはてめェだろうが、アァン!?」
「あーあーウッゼェ…」
いつもの調子でスーパーハイテンションなガキの相手は正直疲れる。ここに上るのはもうやめようかな…と真剣に考えるほどに。
「つーか暇だったら何だってんだ」
「お?おお!やっぱ暇だったんだな才蔵!」
キラキラ……いやギラギラと目を輝かせる紅髪の青年、鎌之介。
ひょんなことから才蔵に付きまとうようになった、金魚のフン。
「あ、あのさぁ… 甘味屋、行かねえ?」
何上目遣いでこっち見てんだよ。急にしおらしくしたって魂胆丸見えだ。
「無えよ。銭なんて無え」
「は?団子代くらい俺が出すってよ!」
「んじゃあ、一人で行ったほうが安く済んで良いじゃねぇか」
「ち、ちげーっつの!」
解せない。わざわざ二人で行って懐をより寒くさせる必要性が分からない。
「お、俺はおまえと…」
「んま、気をつけて」
ひらひら手を振って鎌之介に背を向けた。ああ、寝直しだこりゃ。
「………」
ん?喚き声が聞こえない。
『っざけんな!てめェも来いよクソがああ!』
…って、散々しつこく迫られると思ったんだが。
「……いーよ。もーいい」
なんだ。
なんなんだ。
「素直じゃねえか、どうした我がままのくせに」
「フンッ」
そのままそっぽを向いて鎌之介は地上に飛び降りる。そして一度も振り返ることなく城の外へ出て行ってしまった。結構なことだ。聞分けが良くなって、突然大人にでもなったのか?アイツ。何はともあれ静かな昼寝を邪魔するやつはいなくなった。
「ふはぁ…」
押し殺せない欠伸が幾度も漏れる。それを咎めるやかましい小僧は、いない。
いない……いない……
「んぁああ!」
なんだこれ!ぜっんぜん落ち着かねぇ!
アイツのくせに文句の一つも言わないなんて、おかしいだろう!手に入れた平穏より鎌之介のことが気になって寝れやしない。
もう一回、あのバカに言ってやろう。団子くらい一人で食えと、言ってやらないと気が済まん!
才蔵は飛び起きて鎌之介の出た方向へ足を急がせた。



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