佐助はこの熱の治め方を知っている。
いつかの夜、自室の床の中でしたようにすればいいのだ。
けれど、ここで…?人がいつくるかもわからないこんな城外で…?
(…恥……)
これでは乱れているあいつらと同類ではないか。佐助の中で躊躇いと自尊心が右往左往する。
たが、昂ぶる己を律することはできそうになかった。
止められない…!
言うことを聞かない自分の右手が、スルスルと着物の中をまさぐっていく。
(我……一体、何してる)
佐助は木にもたれ掛かる。
不埒な自分。他人の喘ぎ声を背にしてこのような行為―。
きっと……鎌之介だった、から。
あの声の主があの者だったから、思いもしない事態へと発展してしまったのだ。
「ハァッ…んあぁ…」
鎌之介の卑猥な声に合わせて自身を扱き始める。
一瞬。脳天を打ち抜くような刺激が佐助を襲った。
(何だ…コレ…)
内に眠っていた、男の衝動。
ぎこちない扱きでも、たまらない快感がすぐに下半身を埋め尽くし、全身を巡る。
上下にさすり続ければ、見慣れている己の男性器が、今までで一番熱く大きく天を向いている。
情けない。どれほど滑稽な姿を曝していることか。
それは全部全部全部…、
「アイツのせい…!」
佐助の脳裏いっぱいに鎌之介が浮かんだ。初めて会ったときのこと、急に十勇士だと言い放ったときのこと、今さっきのこと……今のこと。
女のように綺麗な顔をしているくせに、中身はただの変態だった。まったく解せない奴だと距離をおいていた。しかしある時、才蔵のことをちょこまかと追いかける様が、まるで小動物のようだと感じた。
そのときから佐助の心境に、変化が訪れる。欲望に素直というか、ある意味真っ直ぐな志を持った男だな、と。
甘いものを食べている姿なんてなかなか愛らしいじゃないか。……もう少し奴と話をしてみたいと思った。
「はぁ…ん…」
小さく息が漏れる。
話す機会などいくらでもあった。例えば先刻、屋根の上で。掴んだ腕を離さなければよかったのか、と柄にも無く後悔。
「かま…のすけ…」
薄い唇からあふれ出す名前。
相手が、自分だったら良かったのに―。
ありえない状況に陥っている今、いつでも冷静な忍隊頭の様子はそこに無かった。
あちらで行為を行っている才蔵を、佐助は自分自身へ置き換えた。
(我…鎌之介、犯す…)
性交の経験はなくとも、容易く想像できた。響く喘ぎ声が妄想に現実味を帯びさせる。
扱きにますます力と熱が宿った。
この快楽を鎌之介の中に解き放つとは、どれほどの刺激を伴うだろう。
程なく佐助に限界が訪れる。
「…はぁ…ん、んっ!」
 ―イく!
「んっ!!あぁ!」
手のひらにドクドクと生暖かい液体が流れ込む。
 ー達した。
脳内で鎌之介を犯しながら、絶頂を迎えた。喉の奥で飲み込んだ声が辺りにもれていないか、左右を気にする。
幸いひと気は無かった。
あの二人は未だ行為に夢中になっているようで、こちらの気配に気づきもしない。才蔵なら、大嫌いな甲賀者の匂いを嗅ぎ分けるかと思ったのだが、杞憂だった。
この手を拭く手ぬぐいは持ち合わせていない。きっと着物にも精液が付いているだろう。その滲みを後々目にして、激しい後悔に襲われるのだと佐助は覚悟を決めた。
今すぐにここから逃げ出したいのに、動けない。足は立たないし逃げ出す気力も残らなかった。とてつもない脱力感。
背に十字架を背負ったような身体の重さ。
「…クソが」
誰に向けたでもない文句は卑猥な声にかき消された。
やらしい、などともう悪口を言えないではないか。その言葉を口にするたび今の自身が蘇りそうで、こわい。やらしい己。
できることならこのまま闇に紛れてしまいたかった。
満月の夜、もう照らさないでくれ。
月よ浅ましい我を隠して―。


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