六 佐助はこの熱の治め方を知っている。 いつかの夜、自室の床の中でしたようにすればいいのだ。 けれど、ここで…?人がいつくるかもわからないこんな城外で…? (…恥……) これでは乱れているあいつらと同類ではないか。佐助の中で躊躇いと自尊心が右往左往する。 たが、昂ぶる己を律することはできそうになかった。 止められない…! 言うことを聞かない自分の右手が、スルスルと着物の中をまさぐっていく。 (我……一体、何してる) 佐助は木にもたれ掛かる。 不埒な自分。他人の喘ぎ声を背にしてこのような行為―。 きっと……鎌之介だった、から。 あの声の主があの者だったから、思いもしない事態へと発展してしまったのだ。 「ハァッ…んあぁ…」 鎌之介の卑猥な声に合わせて自身を扱き始める。 一瞬。脳天を打ち抜くような刺激が佐助を襲った。 (何だ…コレ…) 内に眠っていた、男の衝動。 ぎこちない扱きでも、たまらない快感がすぐに下半身を埋め尽くし、全身を巡る。 上下にさすり続ければ、見慣れている己の男性器が、今までで一番熱く大きく天を向いている。 情けない。どれほど滑稽な姿を曝していることか。 それは全部全部全部…、 「アイツのせい…!」 佐助の脳裏いっぱいに鎌之介が浮かんだ。初めて会ったときのこと、急に十勇士だと言い放ったときのこと、今さっきのこと……今のこと。 女のように綺麗な顔をしているくせに、中身はただの変態だった。まったく解せない奴だと距離をおいていた。しかしある時、才蔵のことをちょこまかと追いかける様が、まるで小動物のようだと感じた。 そのときから佐助の心境に、変化が訪れる。欲望に素直というか、ある意味真っ直ぐな志を持った男だな、と。 甘いものを食べている姿なんてなかなか愛らしいじゃないか。……もう少し奴と話をしてみたいと思った。 「はぁ…ん…」 小さく息が漏れる。 話す機会などいくらでもあった。例えば先刻、屋根の上で。掴んだ腕を離さなければよかったのか、と柄にも無く後悔。 「かま…のすけ…」 薄い唇からあふれ出す名前。 相手が、自分だったら良かったのに―。 ありえない状況に陥っている今、いつでも冷静な忍隊頭の様子はそこに無かった。 あちらで行為を行っている才蔵を、佐助は自分自身へ置き換えた。 (我…鎌之介、犯す…) 性交の経験はなくとも、容易く想像できた。響く喘ぎ声が妄想に現実味を帯びさせる。 扱きにますます力と熱が宿った。 この快楽を鎌之介の中に解き放つとは、どれほどの刺激を伴うだろう。 程なく佐助に限界が訪れる。 「…はぁ…ん、んっ!」 ―イく! 「んっ!!あぁ!」 手のひらにドクドクと生暖かい液体が流れ込む。 ー達した。 脳内で鎌之介を犯しながら、絶頂を迎えた。喉の奥で飲み込んだ声が辺りにもれていないか、左右を気にする。 幸いひと気は無かった。 あの二人は未だ行為に夢中になっているようで、こちらの気配に気づきもしない。才蔵なら、大嫌いな甲賀者の匂いを嗅ぎ分けるかと思ったのだが、杞憂だった。 この手を拭く手ぬぐいは持ち合わせていない。きっと着物にも精液が付いているだろう。その滲みを後々目にして、激しい後悔に襲われるのだと佐助は覚悟を決めた。 今すぐにここから逃げ出したいのに、動けない。足は立たないし逃げ出す気力も残らなかった。とてつもない脱力感。 背に十字架を背負ったような身体の重さ。 「…クソが」 誰に向けたでもない文句は卑猥な声にかき消された。 やらしい、などともう悪口を言えないではないか。その言葉を口にするたび今の自身が蘇りそうで、こわい。やらしい己。 できることならこのまま闇に紛れてしまいたかった。 満月の夜、もう照らさないでくれ。 月よ浅ましい我を隠して―。 戻る |