となり、いい?
気付いたら好きになってた。
大きな身体に、人一人抱えてる力、実は甘いものが好きで、少し怖い顔つきなのに優しくて、ちょこっと天然なところがある。
彼との出会いは衝撃だった。
四月の、桜が舞う中。
友達と話をしながら校舎へ向かっていくと、後ろから大柄な男子が私たちを追い抜いていった。
男子を一人抱えて。
「なにあれ。」
そうとしか言えなかった。
抱えてる男子もそう小さくないし、細身とはいえ、そう重くないだろうに苦もなく運んでる姿にただただびっくりするだけだった。
その彼が同じクラスでもっとびっくりしたけど。
「太田くん、これあげる。」
「おぉ、なまえ。ありがとう。」
同じクラスになって、彼を知って以来、時々甘味をあげている。
うちは和菓子屋で、和菓子の試作品が作られては、意見を求めるのに手伝ってもらっている。
和菓子は若い人には中々浸透していないからとても貴重な協力者だ。
「美味しいな、これ。餡子も甘すぎず作られてるが、外の皮と相性がいい。しかもこの皮、柑橘の味がするな。」
「さっすが。夏用にオレンジを練りこんだ皮作ってみたの。」
「そうか。餡子が甘すぎないから皮の味が消えてないし、くどくない。いいぞこれ。」
「そっか、良かった。」
表情はあんまり変わらないけど嬉しそうに花を飛ばして食べている姿に、可愛いと思う。
それ、私の力作なの。
とは言えないけど、好きな相手に自分が作ったものを美味しいと食べて貰えるのは、私も嬉しい。
「そうだ、ちょうどなまえに教えて欲しいところがあるんだが。」
「うん、いいよ。」
がたがたと荷物を漁って取り出したのは物理の教科書。
白石さんほどではないけど、好きなジャンルの理科目はそこそこいい点を取ってる。
太田くんも成績いい方だけどたまに分からないところはこうして聞きあってる。
「お邪魔しまーす。」
近くの席から椅子を引き寄せて、隣に座る。
一つの教科書を二人で覗き込むから自然と近くなる距離にドキドキする。
太田くんはあんまり気にしてないみたいだけど。
「ん?なまえ…」
「え、何?」
お互い教科書を覗き込んでいたのに、ふいに、顔を上げられ私のことを見つめてくる。
こんなまじまじと見つめられて、ドキドキが加速する。
「すごく甘い匂いがするな。」
「え、あ、そうかな?」
「おぉ、きっと毎日和菓子に囲まれてるからな。」
にこやかに笑いながら、そんなことを言われて嬉しかった。
私が気付かなかったことを、彼が見つけてくれたことがなおのこと、嬉しかった。
「太田ー」
「すまんな、なまえ。ちょっと行ってくる。田中、呼んだか?」
「ごめん、なんか邪魔した?」
「?なんのことだ?」
教室のドアから何時もの緩い声で太田くんを呼ぶ田中くん。
一言断ってから田中くんのもとへ向かう太田くんのすがたにため息がでる。
田中くんには勝てないな。
「あーあ、」
和菓子という餌をつかって仲良くなったけど、そこから先の進展がなかなか進まない。
私ばかりが好きになるから、毎日がやきもきする。
せめて田中くんくらい仲良くなりたい。
「田中くんはずるい。負けないんだから。」
目下のライバルは田中くんだ。
prev / next