部誌9 | ナノ


同じ未来を生きる為に



僕は運命や未来という言葉を僕は信じているような、信じていないような人間だ。
ひとくくりに人の人生を圧縮してしまったようなこの言葉。
僕は都合のいい時だけ信じて、そして都合の悪い時は運命のせいにする。
そしてその時に一喜一憂しては、とてもとても不確定な未来にサイコロを振る事をたまに忘れそうになる。

人はそれぞれ変わってゆく、予期せぬ形でよくなったり悪くなったりする。
まるで天気だ。
運命と天気は全く違うのにそんな気まぐれな所だけはとても似てるなぁなんて思いながら、僕は急に降り出してしまった雨に困りながらボーダー本部基地の出口で空を見上げた。
この雨に降られると言う未来は僕は望んでいない未来だ。

今朝は晴れていたのに突然の大雨。
こんなに降ってるのは久しぶりに見るほどの大粒の雨が空から容赦なく降ってくる。
小雨なら僕は傘なんてささないで帰ってしまう人間なのだが、流石にこれは無理だ。

どうしよう、止んでしまうまで待っていてもいいけれどいつ止むかもわからない。
これは意を決して走るか、それとももう諦めてずぶ濡れになるか。
果てしなく悩んでいた。
僕は高校生だ、そして今日は金曜日。
もし制服がびしょ濡れになっても乾かせばなんとかなるかもしれない。
もうこれは走るかなぁなんて考えていたら、後ろから人が来た。

「すごい雨だな」
「あ、東さん!」

後ろからやって来た人は僕の大好きな、東春秋さん。
僕より年上で僕の恋人の人。
沢山の大好きをくれる人。
僕は真っ暗な空とは真逆の、多分真夏の太陽もびっくりするぐらいの顔をして東さんの側に寄る。

「東さんも今から帰るんですか?」
「今日はもう帰るだけだ」
「じゃあ一緒に帰ってもいいですか?」
「いいぞ。此処でお前に会えるとは思ってなかった。嬉しい誤算だな」

やった!やった!と僕が喜んでいると東さんも喜んでくれているのか、にっこり笑って言ってくれた。
でも、一緒に帰ろうと言ったものの僕は傘を持ってなかった。

「あ、すみません傘……なくて……」

僕が困った顔で言うと東さんはすっと僕の隣から一歩出てビニール傘をぱっとさすと、こっちにおいでと手を引いてくれた。
僕はすっかり嬉しくなってしまって、東さんと手を繋いでこの一つのビニール傘の下に入った。
この時、僕は運命だ!と心躍らせて思った。
この未来とやらに感謝。

雨は激しさを増す。
ビニール傘を叩く雨粒の音がどんどん強くなる。
僕は濡れないように、という都合のいい理由をつけて東さんに寄り添って歩いた。
水たまりを踏むとばしゃん!と水が跳ねた。
僕のスニーカーはこの一撃でずぶ濡れになった。

そっと、無言で歩く道。
僕は隣の東さんの顔をじーっと見つめる。
別に物珍しいわけではない。

僕は、この人と出会って恋に落ちた。
恋に落ちて恋人になってもらって、結構経つかもしれない。
最初は続くものなのか?と、周囲の古株の人が口々に言ったものだけど僕は全く居心地が悪くないし、これは推測だけれど東さんも悪くないと感じてくれているのか続いている。
とっても嬉しい。
この未来に歩めた喜びと、運命に感謝している。

東さんはとっても優しくて、とっても頭がいい。
僕には知らない事を沢山知っている。
それを言えば僕だってこの人の知らない事を沢山知っているかもしれない。
でもそれぞれ違うわけで。
一人の人間の歩く道というのはその人にしかわからない。

僕は、この先ずっとこの人の隣をこうして歩いていたいのだ。

僕と、この人の関係が続く限り、僕とこの人の未来がある限りずっと歩いていたい。

でも、未来っていうのは沢山枝分かれしててひょんな事で変わったりするものだと、未来がみえるという青い目の人が言っていた。
まさにそうだろうなぁ。
未来なんて分岐だらけなのだろう。

不思議なことに、今までしてきたことや、感じたこと、思った事、悲しかった事、嬉しかった事、逃げた事、選んだ事…上げたらキリがないほどの事で未来はなんちゃって、と決まるのだろう。
僕は、この人の隣をずっと歩いていたい。

こうやって、今みたいに手を繋いで歩いていたい。

そう思って繋いだ手をぎゅっと握る。

僕は、この人と同じ未来を歩く為に沢山努力をしなければならないだろう。
人それぞれの努力。
努力と言うのだから楽なものではないと思う。
でも、その努力というのはきっと苦しくとも喜びに昇華するだろうと思う。

「…雨、やみませんね」

僕がぽつんと言うと、隣の東さんはそうだなぁ…と天気のように悩まし気に言う。

「明日は休みか?」
「?そうですよ」

突然聞かれた。
僕はそうです、とそのまま答えると思わぬ一言が来た。

「よかったら、今日はうちに来るか?俺も明日は1日何もないから」
「いいんですか?」
「いいよ」

予想外だった。
僕は目を丸くするとじわりと温かい気持ちになった。
繋いだ手をぎゅーっと握って下を向くと嬉しさがこみ上げた。
こんな嬉しいことがあるから、僕は共に歩きたいと決めたのだ。
だから、どんな困難もきっと立ち向かえる。
きっと。
そんな事を考えつつ、二人でビニール傘の下で笑った。

こうやって、本日の僕のこれから歩む未来に、幸せの定義をつけてくれた気まぐれな運命に感謝した。



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