部誌9 | ナノ


お気に召すまま



「え、あの子が…?」

その日、政府から連絡を受けた審神者は、震える声でそれだけ呟き、連絡端末を投げ捨てた。

「主?」
「どうかなされたのですか?」

真っ青な顔で執務室から飛び出してきた主に刀剣男士たちは声をかけ、その声も聞こえない様子の審神者は足早に門へと走っていく。

「あ、大将!出掛けるなら俺を懐に…!」
「買い物なら荷物持ちするか?」

門扉に手をかける審神者に非番の刀剣男士はぞろぞろと集まり、普段と様子の違う審神者に顔を見合わせた。

「こんのすけ、現世に繋げ」
「政府からの許可がおりていません」
「なら、あんな連絡、現世に繋げられるようになってからにしろと伝えておいてくれ!!」

腹立たしげに門扉を蹴り、くるりと向きを変えた審神者は、少し離れた位置で様子を伺っている刀剣男士たちに気付き、にこりと青い顔のまま笑いかけた。

「あぁ、すまない。珍しく取り乱したところを見られたしまったな。なんでもない。みんな、持ち場に戻ると良い」

それだけ言うとふらふらと審神者は執務室へと戻っていき、近侍の長谷部が審神者に声をかけ、その後ろを追いかけて行った。

「主様、どうしたんだろうね」
「あんな主様、初めて見たなぁ」

口々にそんなことを言いながらそれぞれ戻っていった。

次の日、審神者がしばらく現世に行くことになったと話があり、それが審神者を見た最後の日になった。

「主くんはいつ帰ってくるんだろうねぇ」
「なぁに、そのうち帰ってくるさ」
「何かあっても、長谷部が一緒に居るんじゃから、心配はないじゃろ」
「でも、こんなに長く居ないなんてね」
「それでも、待つしか私たちには出来ませんし」

さわさわと風が吹くように不安は広がっていき、そうしてとうとう、この本丸が他の審神者に引き継がれることになったと、こんのすけから発表があった。

「こんのすけ、あるじさまはどうしたんですか?」
「主様、もう帰ってこないのですか?」

口々にそう尋ねてもこんのすけは何も答えず、再度この本丸が他の審神者に引き継がれることになったと繰り返すだけだった。

「さよならも言えなかったなぁ」
「今までだって、そうだったろ」
「でも、今回はなんか違うだろ」
「帰ってくるって、言ってたのにね」
「一緒に行った長谷部さんはどうなったんだろう…」
「この本丸で一番練度高かったのに…」

新しい審神者が来るまで不安げに刀剣男士たちはそう囁き、新しい審神者が本丸にやってくるとこれまで通り、任務に当たった。

「え?いなくなった?また?」

ある日を境に、刀剣破壊されるわけでもなく、遠征に失敗したわけでもなく、ちらほらと刀剣男士たちがいなくなるという現象が起きていた。
その穴埋めに新しい審神者は、新しい刀剣男士を顕現させていた。
不思議と新しい刀剣男士たちはいなくなることがなく、練度の高い、前の審神者から引き継いだ刀剣男士たちのみが姿を消すのだった。

「最後に見たのはいつだ?」
「歴史修正主義者とも、検非違使とも違う敵と戦った後なんだよね」
「そんな敵、聞いたことないぞ?」
「他の本丸の人たちは会ってないみたい」
「最後に見かけたとき、みんな同じようなこと言ってるんだよね」

『私はあなたの刀剣。あなたのお気に召すまま、この力ふるいましょう』



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